(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)

 わたしは自転車が好きである。会社に勤めていたときは週末だけだったが、定年退職後は13年間、ほぼ毎日乗っている。

 還暦を過ぎて車の免許を取った姜尚中氏は、自分が意外にも、「カーマニア」だということを発見したというが、自転車は、すぐのんびりしたがるわたしの性格に一番合った乗り物のような気がする。自分のそのときの気分や体調に応じて、スロー走行から疾走まで、走りを調整できるところもいい。「人間に一番近い乗り物」ともいわれるゆえんであろう。

 といっても、ちっとも本格的ではない。わたしが乗っている自転車は、前かごのついたふつうの26インチの買い物自転車、俗に「ママチャリ」といわれるものである(以下、便宜上「ママチャリ」と呼ぶ)。

 NHK BSで火野正平がやっていた「日本縦断 こころ旅」の「チャリオ」みたいな名前はない。あちらはイタリア製のウン十万円もする高級車(らしい)だが、こちらはそのへんのホームセンターで売っている1万5000円もしない代物である。変速装置はついていない。わたしは変速機がついている自転車に乗ったことがない。

 定年退職した人のなかには、新たな趣味として、ロードレーサーを買う人がいるようである。ウン万円からウン十万円するが、そういう人は金の心配はしないものだ。そしてあの流線形のヘルメットを被り、カラフルなピチッとしたシャツ(多くは太鼓腹)とショートタイツみたいなものを履き、本格的なのである。

 かれらは同好会みたいなものに入ったり、ツーリングに行ったりしているのだろうか。わたしはヘルメットを被りたくないから、レーサーには魅かれない。あの本格的な恰好が恥ずかしいし、市中を走るだけの用途なら、ママチャリで十分である。

サドルの高さを変えただけで

 現在乗っている自転車は定年後に買ったたぶん3~4台目で、前の2~3台はいずれも盗られた。それでいまの自転車は安物だし、サビが出てボロボロなのだが、駐輪するときは、ワイヤー錠をつける習慣がついた。いくらボロ自転車でもなくなればすぐ、困るからである。

 とはいえ相当ガタがきていて、昨年の夏頃、買い替える決心をした。ペダルを漕ぎ、数十メートル進むと、チェーンが外れて空踏みになるという事態(チェーンカバーで覆われているから推測)が頻繁に起きるようになったからである。すぐ直るのだが、危なっかしくてしょうがない。