(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)

 和田秀樹著の『80歳の壁』(幻冬舎新書)が売れているので読んでみた。わたしが読んだものは帯に「40万部」とある。

 最初にお断りしておくが、同書にケチをつけようというのではない。むしろわたしは、和田氏が昔テレビによく出ていたころから、やけに高い声の人だなとは思ったが、かれの人柄や話の内容には好感をもっていた。

 読みながら、同意するところや疑問のところなど相当数の付箋を貼った。読み終えたあとでは、基本的には妥当な、同意できる点が多いという感想をもった。かれは医学界の常識に対して妙な遠慮がないところがいい。

 同書の要点を一言でいうなら、「80歳を過ぎたら我慢をしない」の一点に尽きている。つまり「老化に抗うのではなく、老いを受け入れて生きるほうが幸せ」ということで、「明日死んでも後悔しない」ためには「無理や我慢をやめる」ことだ、といっている。したいことは我慢しなくていいし、したくないことは無理にしないでいい。

 特に次の三つは要注意だという。和田氏は、効いている実感がないのに薬を飲み続けること、健康のため、がんにならないためといって、食べたいものを我慢すること、また興味はあるのに、年だからといって我慢すること、これらの我慢はしなくていいというより、「本当はしてはいけない我慢や無理」なのだという。

 したいことはする、嫌なことはしない、ということである。だから、酒やたばこもやめないでいい、ギャンブルもしていい、車は乗り続けていい、健康診断は受けなくていい、無理に運動はしなくていい、嫌な医者とは付き合わない、でいい。