彼女はこういっている。「私はいつも元気いっぱいな人だと思われがちですが、年齢を重ねるにつれてメンタルのバランスがうまくとれなくなって苦労していたんです」。それで通販にのめりこんだりしたのだが、「BTSのおかげで爆買いが減った」。かれらの「曲を聴くたびに、『うなだれていちゃダメだ。僕たちを見て!』と鼓舞してくれる気がするの」
韓国のであれ日本のであれ、アイドルに入れ込むというのがよくわからない。「EXILE」のおっかけおばさんもいるようである。「純烈」のファンは年齢層がもっと上で、ほんとのおばあさんか。歌舞伎に熱中しているおばさんもいる。四十代の中年男で地下アイドルファンというのはいそうだが、60、70のじいさんで例えば「NiziU」のファンはいるのだろうか。いてもいい、と和田さんがいっているが。
麻木さんの着地点はここである。かれらは「アイドルなんだけど、歌に社会への問題提起や意思が詰まっている。お尻を蹴飛ばしてくれる力強い曲もあれば、自己肯定できる優しい曲もあって。私にとって処方箋のようなものなので、これさえあれば老後を生きていけます」。まあ無理だとは思うが、わたしが水を差すこともない。
61歳の著者より自分自身がよくわかっているはず
和田秀樹氏は「高齢者専門の精神科医」である。診察した患者は6000人を超え、「老年医学のプロフェッショナルを自負」している。しかしまだ61歳である。前期高齢者ですらない。たしかに有用なことを書いているが、それくらいのことは自分で考えればわかることで、和田氏に教えてもらうほどのことでもない。
読者たちの多くが70歳代か80歳代かは知らないが、どっちみちかれらは和田氏より年上の当事者のはずである。たしかに和田氏は医学の知識はあり、患者を多数診断した経験もあるだろうが、読者たちが実際に感じている日々の不安や不如意の実感はないはずである。
もちろん当事者だからといって全部わかるわけではない。定年も老後も、つまり60歳になるのも70歳になるのも80歳になるのも初めての経験である。そういう意味では不安になるのもしかたがないかもしれない。しかし、実際に自分を生きているのは自分自身である。あなたのことはあなた自身が一番わかっているのだ。
「毎朝、鏡を見て笑顔をつくってみませんか。一日中ハッピーな気分で始まると思いますよ」。いくらなんでも、こんなことはいわれたくないではないか。和田氏が実際の老人でないからこういう呑気なことがいえるのだ。
だから本を読んで「なるほど、これはいい」と思うところは採用し、ここはさすがにばかばかしいなと思えば、その部分は無視すればいいだけの話である。
団塊の世代が定年になったときは、定年本ブームがあり、そのかれらもいまや75歳の後期高齢者に突入したところから、いまや老後本がねらい目なのだろう。そうでなくても老人はオレオレ詐欺のいいカモにされていて、犯罪者の連中から、赤子の手をひねるより簡単だと、ばかにされているのだ。
大雑把ないい方になるが、昔の老人にはまだ年の功というものがあったような気がする。それに比べ、いまの年寄りの多くは、自分でなにも考えない、ただ馬齢を重ねただけの年寄りになっているのではないかという疑念がある。しかし今ごろそんなことに気づいても、遅すぎるか。