「Better Life for All」。これは今からちょうど30年前、南アフリカ全土を揺るがしたネルソン・マンデラの言葉だ。
すべての人々により良い生活を望む権利があることは近代社会では法に定められている。基本的人権だ。私達は人種や宗教やジェンダーで差別されてはならない。内実には疑問もあるが、法の下では平等だ。
しかし、南アフリカではつい30年前の1994年まで、法が人種差別をしていた。肌の色で人間が分けられていた。黒い肌に生まれたというだけで住みたい所にも住めず、職業も限られ、世の中を変えたくても肝心の選挙権がなかった。白い肌の人間が自分たちの都合だけで国を取り仕切っていたのだ。これが30年前までの南アフリカの現実だ。
マンデラが開けた新時代の扉
それでも、1990年代に入るとさすがに人種隔離にも限界が見え、南アフリカは民主化へと大きく舵を切った。ネルソン・マンデラはその民主化への道の象徴であり黒人の希望の星だった。
そして1994年4月、南アフリカで初めての全人種参加による総選挙が実施された。長年の人種隔離政策によって自由を奪われ、まさに手足を縛られた状況にあった南アの黒人たちにとって、この選挙はやっと見えた自由への扉だった。あの時、南アフリカの黒人の熱気はネルソン・マンデラという卓越したリーダーの力強く振り上げた拳に沸騰していた。マンデラの人気は凄かった。