黒人の暴走と希望

 しかし、その祝いのムードの中で通りでは一部の興奮した黒人の若者たちが暴徒と化していた。商店のガラスが割られ、デクラーク大統領のポスターに火がつけられた。そして、出動して来た白人警官と乱闘になった。

勝利に酔った群衆はやがて暴徒となった。ヨハネスブルクにて(写真:橋本 昇)
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 警官が放ったシェパードが若者のズボンに嚙みついたが、逆にシェパードは群衆から石を投げられてキャイ~ンと退散した。それまでの抑えつけられていた鬱憤が爆発した瞬間だった。

 数時間の騒ぎの後、気が収まったのか群衆は去って行った。残った白人警官が言った。

「黒人さえいなかったら良いところなのに……」

 マンデラに託されたのはこのような国の舵取りだった。

 マンデラは「過去の人種間の怨念にとらわれることなく力を合わせて新しい国を作ろう」と、国民に呼びかけた。そして白人政党の国民党、ズールー族のインカタ自由党との連立政権を発足させ、国民の融和と共生を呼びかけた。新しく制定された6色の虹の国旗は人種や民族の共生を表現しているという。

首都プレトリアで新しい国旗掲揚を見上げる人々(写真:橋本 昇)
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 選挙の前日に首都プレトリアの国会前で国旗掲揚セレモニーが行われたが、揚がっていく国旗を肌の色の違う人々が肩を組んで静かに見つめていた。中には目に涙を滲ませる人もいた。それは人々の万感の思いが伝わってくる光景だった。

*後編に続く

【橋本昇】
30年にわたり、フランスの写真通信社sygma(現在はgetty images)の契約フォトグラファーとして、国内の被災地や海外の内戦、難民を取材。著書に『内戦の地に生きる―フォトグラファーが見た「いのち」』(岩波ジュニア新書)がある。

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