成果を生むはずがなかった南北対話
映画の感想の前に、僕の文在寅評価を述べたい。
実は、僕の知人には文在寅ファンがけっこういて、あんまり文在寅のことは悪く言いたくない。でも、はっきり書くと文在寅の様々な政策、特に対北朝鮮政策は最初から「あんまりうまくいかないだろうな」と思っていた。
僕は修士課程時代、1970年代の東アジアの国際政治について研究していた。具体的には、韓国の核兵器開発計画がなぜ挫折したのかについて研究し、英語で論文を書いた。優秀論文賞もいただいた。
70年代、表では南北が歩み寄りを見せた時期もあったが、裏ではお互いに激しい体制競争をやっていた。武力衝突一歩手前の事件も何度か起きた。僕は70年代からの文脈を知っているので、南北の歩み寄りは結局うまくいかないだろうし、そもそも北朝鮮が核を放棄できるわけないと冷めて見ていた。
なぜ北朝鮮は核兵器を開発してきたのか。あるいは、なぜアメリカは日本と韓国とそれぞれ同盟を結んでいるのか。この問いに答えるためには朝鮮戦争(1950~53)まで遡らないといけない。東アジアが現在のような国際関係になっているのは、それなりの理由とややこしい文脈と、約70年の歴史がある。一人の大統領のリーダーシップによって、国際関係を根本的に変えられるなんてことは幻想である。
南北対話に感動する在日コリアンも多くいたが、僕はやはりどこか冷めていた。大阪大学での学部生時代から大学院時代にかけて、リアリストの国際政治学者の先生たちに習ったので、リアリズムが身についているのだ。以前、日本の国際政治学者、高坂正堯氏の本を引用したが、そもそも高坂氏の本を読むような人は文在寅の外交政策を評価できるはずがないのである。