ちなみに、韓国出身の父は当初、南北対話に大きな期待感を持っていた。父は元来、感情が表出しやすいタイプで、南北対話を伝えるニュースを見ながら涙を見せていた。感動していたのだと思う。隣りにいた僕はものすごく冷静に、コテコテの関西弁でこう話した。

「1972年には南北共同声明があったけど、もう誰もその歴史を覚えてないよね。なんなら、韓国は安全保障のために核兵器を開発しようとしたからね。最近だと、あの金大中がやろうとしても変わらんかった。
 そもそも、北朝鮮が核を放棄するのは無理やと思う。そのためには在韓米軍が撤退するくらいのことがないと。でも、思い出してほしいんやけど、在韓米軍がいなくなった後に朝鮮戦争が起こったやんな。いまの韓国がアメリカとの同盟を破棄するなんて考えられへんやろ。
 でも、それくらいじゃないと、北朝鮮は核を放棄できへん。自国の安全保障が成り立たへんからね。北朝鮮の立場に立ってみたら絶対そうやもん。結論を言うと、今回いくら首脳同士が話しても、結局なんも変わらへんで」

 というわけで、僕は当初から文在寅の外交政策を評価していないのだ。そんな僕が、映画『文在寅です』を見た感想を述べたい。

なぜか文在寅はあまり話さない

 ソウルの中心部で映画館を探したが、全然上映されていなかった。仕方なく、カンドンにある映画館まで足を延ばした。約90人が入る映画館で、観客は僕を合わせて10人ほど。休日の16時からの回にしては寂しい入りである。大コケしているという報道もうなずける。

 映画が始まった。映画としてはかなり単調な作りだ。関係者へのインタビュー、文在寅の農作業、犬との散歩。これらの3つで1時間半が消化された。2時間のうち、1時間半である。しかも、意外なことに、文在寅自身はあんまり話さない。人柄や功績は関係者が出てきてべらべら話す。「その話、本人から聞きたいんだよ」と思う。文在寅が話しているのは、合計して10分もなかったように思う。

 関係者が明かす話で、「トランプ大統領との交渉がタフだったが、なんとか乗り切った」という逸話があった。こういう話こそ、当の文在寅自身から聞きたいのだ。でも、文在寅は全然出てこなくて、全部、部下が話す。「文在寅、もっと出てきてよ!」と思った。