このドキュメンタリー映画の目的は何だ? 文在寅のプロバガンダ映画だろう。でも、当の文在寅が全然魅力的に描かれてないのだ。文在寅の人柄がスクリーンを通して伝わってこない。たしかに、関係者は「文在寅は人の話をよく聞くんですよ」とか言っている。しかし、奥さんとは庭の花をどうするかでちょっと揉めているし、あんまり人の話を聞いている感じがしない。むしろ、「周りの人によく話を聞いてもらっているおじいさんだな」という印象を持つ。
このおじいさんを好きになれるか?
そして、これが一番大きな問題だと思うのだが、この映画には食卓のシーンがない。文在寅という元大統領のおじいさん(70)を見に来た観客としては、やっぱり、何を食べて過ごしているのかが気になる。どういう食生活をしているのか。これは食を大事にする韓国では決定的に重要な要素だと思う。
文在寅の食生活は庶民的なのかもしれないし、意外と好き嫌いがあったりするかもしれない。いずれにせよ、文在寅が何を食べるのかは気になる。それが全然描かれてない。
文在寅の政治的発言を映画から削除したという報道があったが、この際、そういう話はもうどうでもいい。僕は途中から、「関係者の話はいいから文在寅自身についてもっと教えてくれ!」と思いながら見ていた。
1カ所だけ、惜しいシーンはあった。農作業に疲れた文在寅が外で寝そべるシーン。文在寅の紺色の靴下が少しアップで映し出される。靴下のカットはけっこう面白いと思った。しかし、1秒にも満たないくらいで、すぐに別のシーンに切り替わってしまった。惜しい。こういうのが見たいのである。
僕は真剣に、「映画を見たあと、このおじいさんを好きになれるか?」という視点で見ていた。紺色の靴下のカットは、「この人も普通のおじいさんだな」と思ったが、欲を言えば、靴下に穴が空いてるとか、靴下がめっちゃ汚いとか、なんなら素足だともっとよかった。そこは演出を入れてほしかった。どうでもいいシーンに思えるが、こういう細部を詰めてくれないと、いくら元大統領とはいえ、おじいさんを好きになることはできないのである。