国内法で訓練等に支障をきたす自衛隊
外国の軍隊は戦時国際法で行動するが、自衛隊は行政府の一機関にすぎず、行動と権限は自衛隊法で担保されてきた。
2003年に制定された事態対処法は行動の発令根拠となるもので、自衛隊法と関連付けされ、他省庁所管の法律20本*4の適用除外規定が設けられた。
また事態対処法を基礎に2004年に特定公共施設等利用法*5と国民保護法が制定された。
予測事態は「武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」とされ、「この事態においては武力攻撃の発生が回避されるようにしなければならない」としている。
まさしく理念としてはあり得ようが、物理的準備をすべき自衛隊はどう動けばいいのか難しい。
事態対処法の事態認定は即応予備自衛官および予備自衛官の招集、防衛出動待機命令、防御施設構築措置の総理承認、防衛出動の国会承認要求に関連付けられ、また特定公共施設等利用法および国民保護法も適用される。
他省庁関連法律の適用除外はほとんどが武力攻撃(予測)事態が認定されて以降であり、緊急対処事態では適用されない。
平時の(機動)訓練等では適用除外はないので、関連する法律に沿って関係する機関に申請して承認を受けなければならない。
かつて戦車にもウインカーが付いていると噂されたように、平時は戦車といえども国内法遵守である。
陸自の主要装備品である機動戦闘車(MCV)や戦車等は道路法(車両制限令)の規定を超えるので、公道移動では所管の警察署や道路管理者に申請し、照会を受け、承認通知を受けなければ動けない。
経路が国道、県道、市道にわたると、それぞれに申請が必要となる。
また車高制限のためにタイヤの空気を抜き、あるいは重量制限で戦車の砲塔を分離して移動したりすることもある。
これはほんの一例に過ぎない。訓練に励むべき隊員や時間の多くが訓練外で消費される。
自衛隊の任務完遂には普段の訓練が不可欠である。訓練は機動ばかりでなく展開や陣地構築もある。
大部隊の展開は駐屯地や演習場の外となるのは必定で、土地の収容や防御施設構築が付き物である。
しかし、関連法は武力攻撃予測事態が認定されて以降に措置されるとしているので模擬的にもできない。
「ここを収容したことにする」「あそこに構築したことにする」としかできない。
これでは実際に要する時間や隊力などが判然としないし、訓練をやったことにもならない。
3文書が掲げる「総合的な防衛体制の強化」では港湾施設や飛行場施設、さらには電波の利用等でも総合的に調整できるが、これも事態認定以降である。
特に弾薬、燃料については輸送時に「火」(防衛出動時以外)や「危」(常時)の標識をつけることになっており、準備状況等を相手に察知させる危険性がある。
また、自衛隊では武力攻撃予測事態から可能であるが、米軍は武力攻撃事態にならなければ行動できないという場合もあり、日米の共同作戦などに支障をきたす。
日米が共同の実を得るためには事態認定や武器使用、武力行使の条件等を整合させる必要がある。
要するに、平時に有事を想定(模擬)した訓練をしようにもほとんどできないし、日米共同の実も発揮できない法体系である。
かつて統合幕僚会議議長だった栗栖弘臣氏(1940-2004)が、法の整備を訴えて約半世紀の間に法体系は構築されたが、機能しない状況、すなわち魂が入っていない状況ではないだろうか。
脅威を置き去りにして机上で作り上げられた必然の結果であろうか。
*4=道路法、道路交通法(以上、部隊の移動、輸送関連)、海岸法、河川法、森林法、自然公園法、漁業漁場整備法、港湾法、都市公園法、都市緑地保全法、土地収用法、土地区画整理法、首都近郊緑地保全法、近畿圏の保全区域の整備に関する法律、都市計画法(以上、土地の利用関連)、建築基準法、消防法(以上、建築物建造関連)、医療法、麻薬及び向精神薬取締法(以上、衛生・医療関連)、基地、埋葬等に関する法律(戦没者取扱関連)
*5=名称は「港湾施設、飛行場施設、道路、海域、空域及び電波の利用に関し総合的に調整する根拠法」