自衛隊の現実

 5年前まで「日本」を守る防衛省(内局)で計画立案の中心人物であった前田哲・防衛政策局長(当時)が「2、3日だったら耐えられるが、2週間くらい耐えろと言われたら、どうするんだという切実な問題だった」(「産経新聞」令和5年10月17日)と告白している。

 筆者をはじめ国民の皆さんは「なんたる無責任!」と叫びたいだろう。

 ただ、こうなる原因を作っている多くの要因は防衛省・自衛隊だけではどうしようもない外部にあるわけで、それが「総合的防衛体制の強化」となるわけである。

 3文書が出た数か月後に元陸上幕僚長、元海上幕僚長および航空総隊司令官の3人、すなわち制服自衛官の最高位にあった3氏が「使える戦略にしないと国家を守れない」の掲題で鼎談(『正論』令和5年7月号)している。

 外部要因によって限りなく戦えない状態に自衛隊が置かれてきたことの告白であり、3文書への期待である。

 3氏は3文書を高く評価するが、現実には国内法との関係、省庁の縦割り意識の強さ、地方自治体の非協力、さらに企業、中でも労働組合との関係などの問題点を指摘する。

 そして、普段から地方自治体や企業なども巻き込んで訓練などをやっていなければ、いざと言うときにはできないと断言する。

 陸上自衛隊を実質的に動かす最上位の陸上総隊司令官であった高田克樹氏は同上誌で「現代戦に対応する法整備を急げ」と論じ、自衛隊の機動展開や普段の訓練、(指揮通信などのための)電波の割り当て、国民保護等に関して他省庁に関わる国内法の適用除外問題等を論じている。

 また、今年1月号では「戦略3文書に魂を吹き込め」と題した論文で、事態対処法3の認定問題を論じている。

 前述の国内法問題に加え、机上で考えられたとしか思えない事態認定で物的移動を伴う自衛隊が本当に機能するかという本質的な問いかけである。

 前述のシミュレーションに参加した元事務次官の島田和久氏は「戦略3文書の先にある『意思決定』の課題」(同上誌令和5年11月号)として、同じく事態認定を取り上げている。

 認知戦などが意識されていなかった約半世紀前に有事法制の必要性が検討され始め、20年前の2003、2004年に法制化された体系の見直し提案である。

 要するに、立派な3文書ができ、それに基づき各分野で整備が進めば日本の安全保障が相当に進むし、兵器装備、弾薬も充足するであろうが、文民統制の根底を成している法体系や政治の意思決定が上手くいかなければ、自衛隊が保有する能力は存分に発揮できないし、最終的に国民の負託に応えることはできないよと言っているのだ。

 現実問題としてもないない尽くしで、ざっくり言って、「戦える自衛隊」ではあり得なかった。

 隊員・兵器は未充足、任務の増大や演習場の不足などから訓練もままならない状況が続いてきた。

 そうした現実が防衛省・自衛隊の責任ある局長に先の言葉を語らせたのだ。防衛省・自衛隊がいくら切歯扼腕しても自衛隊の内部だけでは解決できない法令や予算が絡む外的要因が大きい。

*3=名称は「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」。事態対処法の事態とは武力攻撃予測事態、武力攻撃事態及び存立危機事態をいい、災害等の緊急対処事態は別である。