縦割りの中央省庁が問題

(1)国家安全保障会議と国家安全保障局

 国家安全保障会議(NSC)が創設され、内閣官房に国家安全保障局(NSS)が設けられた。

 NSSは国家安全保障に関する外交・防衛・経済政策の基本方針・重要事項に関する企画立案・総合調整に専従し、緊急事態への対処に当たっては国家安全保障に関する外交・防衛・経済政策の観点から必要な提言を実施するとなっている。

 外交、防衛、経済に限定すること自体が外務省、防衛省、経産省という縦割りをにおわせる。

 せっかく、研究開発・公共インフラ整備・サイバー対処・国際協力にも安全保障の視点が向けられたし、また本論でも述べたように、政府の意思決定に深刻な影響を与える認知戦も存在する。

 同盟国や友好国の有り様も日本の安全に影響する。もっと視野を広めるべきではないだろうか。

 国家安全保障戦略には「偽情報等の拡散を含め、認知領域における情報戦への対応能力を強化する」「(そのための)新たな体制を整備する」となっている。

 ところがなんと、認知戦領域どころかその中の一部でしかない「偽情報等」に限定した上、「収集・集約・分析」は内閣情報官(内閣情報室の長)の下で行い、「対外発信等」は内閣広報官(内閣広報室の長)の下でやるという(松野博一官房長官(当時)記者会見、令和5年4月14日)。

 先出の島田氏は「内閣官房の組織も縦割りであり、各省の既得権益も微妙に絡み合っている」と記している。

 認知領域こそがNSSが所掌するに最も相応しいと思われるが、なぜか内閣情報官(警察庁関係?)と内閣広報官(外務省関係?)に分割された。

 まさしく既得権益の分捕り合戦の結果ではないだろうか。

 こうした諸々を有事対応に効果的に機能しているか否か総合的に評価してNSCかけることこそが3文書に掲げる「総合的な防衛体制の強化」ではないだろうか。

 視野を広めて、もっとNSSを活用すべきである。

(2)国土交通省

 高速道路建設に当たって防衛庁(当時)の要求は非常時の滑走路化であったが門前払いされてきた。

 東日本大震災で東北自動車道だけが機能したが、そこを小型飛行機やヘリが使えたら現場にもっと早く支援物資などを運べ、人命救助にも大いに役立ったのではないか。

 高速道路が非常時においては戦闘機等の発着に利用されるのは世界の常識である。

 日本では空港、港湾も平時の自衛隊は使用できない。

 海上自衛隊(海自)が海賊対処活動をしていることもあって船員との関係は少しずつ良くなっている(前出鼎談)とされるが、労働組合との関係で有事にもすんなりとは行かないとみられる。

 前常磐大学教授で防衛道路や空港の共用化に造詣の深い樋口恒晴氏(「産経新聞」令和6年2月16日付「正論」参照)は、国交省は運輸省時代から自衛隊や在日米軍を民間航空に対する障害とみなしてきた。

 その結果、防衛庁・防衛省の有事対応に関する協議申し入れを門前払いし続けてきたという。

 また、航空関係の労働組合は左派が強いことから、有事への準備と聞けば左派政党と連携し、大々的な阻止活動をするだろうとみる。