新橋の芸者・樋田千穂は、伊藤の愛人であることで一目置かれ、のちに新橋の料亭「田中屋」の女将として君臨することになる。

 彼女は「つまらない男と結婚するくらいなら、一流の男の妾になりなさい」と孫で女優の樋田慶子に自らの教訓を伝えている。

 女性が男性に求めるものとして、経済的豊かさ、野心的であること、勤勉であること、などが挙げられる。

 いくら外見が良くても家に金を入れられない男と結婚するよりは、大物の妾になる方が幸せな人生が待っているというのである。

 樋田千穂の著書『新橋生活四十年』に、

「同時に複数の芸者と関係を継続し、1人の芸者と情事を済ませると、もう1人の芸者を呼んで3人で川の字になって寝た」

「40度の高熱でうなされている時も、両脇に芸者をたずさえていた」

 と伊藤が、いかに芸者に血道を上げたかが綴られている。

 晩年の伊藤曰く、

「予は寡欲で、貯蓄ということを毛頭存ぜぬ。麗しき家屋に住もうという考えもなければ、巨万の財産を貯えるという望みもなく、ただ公務の余暇に芸妓を相手にするのが何よりの喜び」

 伊藤は、春情を満たす性の愉楽に自身の人生の趣意を見い出していたのだろう。

 満州のハルビン駅で安重根に暗殺され落命したが、伊藤はかねて妻、梅子に「予は畳の上では安穏な死に方はできまい。敷居を跨いだ時から、是が永久の別れになると思へ」と言い聞かせていた。

 粛然として訃報を聞いた梅子は「国のため光を添えてゆき君とし思へど、悲しかけりなり」と詠い、悲嘆に暮れながらも、袖を濡らすことはなかったという。

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