東京の上野動物園の双子のパンダ、シャオシャオとレイレイが、2026年1月下旬(貸与期限は2月20日)に中国に返還される。これで、日本にはパンダが不在となるが、その後、中国からパンダが貸与される予定はない。

孫文の嘆き

 私は、孫文について研究し、辛亥革命100周年に当たる2011年に上海の復旦大学で、『辛亥革命と日中関係』という記念講演をした。その日は3月11日であり、講演を終えて、教授たちと昼食して歓談した後、上海の街を散歩していると、日本の東北地方で大地震だというニュースが舞い込んできた。忘れられない1日である。

 その後、孫文研究の成果を『孫文—その指導者の資質』(角川書店)という小著にまとめ、10月に公刊した。

 孫文は、民族主義、民権主義、民生主義という三民主義を掲げるが、まずは、中国に民族意識が乏しいことを危惧した。当時、外国人に「中国人はばらばらの砂のように」まとまりがないと批判されたが、孫文の不満は、中国人の団結力が家族や宗族(そうぞく、父系同一祖先の一族)を守るためのみにあって、国家にまでそれが広まっていないことにあった。「民族思想を失っていなかったなら、外国の政治力と経済力はけっしてわれわれを打ち破れなかったはず」だというのが、孫文の主張である。

孫文(写真:アフロ)

 孫文は、「中国は、かつて、非常に強大な文明の進んだ国家であり、世界の中の第一の強国だったし、その地位は、いまのイギリス、アメリカ、フランス、日本といった列強より、はるかに高かった。われわれの祖先は、むかし、それほどの地位にまで達していた。それが、いまは植民地にさえ劣っている。それは、われわれが民族精神を失い、そのため、国家が日一日と衰えてしまったからだ。」と述べている。