結核の「2027年問題」とは何か?

 高柳氏が指摘する通り、外国人労働者向けの結核対策は待ったなしだ。27年までに施行される「育成就労制度」の存在がある。この新制度の導入により、日本に来る外国人労働者の数は大幅に増加する見通しであるためだ。

図表:「育成就労」の制度概要(出典:公益財団法人国際人材育成機構)図表:「育成就労」の制度概要(出典:公益財団法人国際人材育成機構)
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 23年末の時点で、技能実習生が約40万5000人、特定技能外国人が21万人ほど日本にいるが、技能実習では、失踪の問題があったり、母国で多額の仲介料が求められたりする問題が発覚し、同制度は廃止されることになっている。

 24年に改正法が成立し、「育成就労」が2027年までに開始されることになった。国は新たな制度の下、2029年までに特定技能外国人が最大82万人に達すると予想している。飲食店や製造業、介護分野で外国人労働者の急増が見込まれる。

 この急増に伴い、外国人労働者が多く集まる地域や職場での結核対策が一層重要となる。筆者はこの課題を指して「結核の2027年問題」が差し迫った状況にあると考えている。

 育成就労は、3年ほどの期間で文字通り育成が行われ、その後、特定技能外国人として就労する流れになる。就労先は、飲食業、製造業、介護などが多いが、特に飲食業や介護の現場では、従業員が顧客や利用者と接触する機会が多いため、感染拡大のリスクを考える必要がある。

 さらに、多剤耐性結核の問題も見過ごせない。

 フィリピンを中心に複数の薬に耐性を持つ、つまり薬が効かない多剤耐性結核の感染者が多く報告されている。こうした患者は新薬を使って治療する必要があり、治療コストは6カ月で薬代だけで1人当たり350万円近くなる。幸い日本では多剤耐性結核の報告は今のところ少ないが、今後、海外から厄介な結核の侵入が増える可能性も考えておく必要がある。

 そもそも結核は高齢者で問題になっており、今後、社会の高齢化によって問題が大きくなることが予想される。結核の感染者は、体内に結核菌を保有しているものの、症状が現れない潜在性結核感染者が存在することが知られている。こうした人々が免疫低下などにより発病するというケースが多くある。こうした問題も注目する必要がある。

 それと併せて、ここまで示したように外国出生者の結核への対策が急務だ。

【参考文献】
市内2施設における結核発生について - 郡山市公式ホームページ (koriyama.lg.jp)
2023年結核年報の概況(公益財団法人結核予防会結核研究所)
入管白書「出入国管理」 2023年版「出入国在留管理」日本語版 出入国在留管理をめぐる近年の状況
入国前結核スクリーニングの実施について Japan Pre-Entry Tuberculosis Screening
「技能実習制度」が「育成就労制度」に変わります
「技能実習」が「育成就労」に 参院で可決 新制度のポイントは

星 良孝(ほし・よしたか)
ステラ・メディックス代表取締役/編集者 獣医師
 東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPにおいて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年に会社設立。獣医師。
 ステラ・メディックス:専門分野特化型のコンテンツ創出を事業として、医療や健康、食品、美容、アニマルヘルスの領域の執筆・編集・審査監修をサポートしている。また、医療情報に関するエビデンスをまとめたSTELLANEWS.LIFEも運営している。
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