「都会でも結核の感染は決して珍しくない」

 この年に東南アジア諸国のビザが規制緩和されたことが大きいと見られているが、フィリピン、ベトナム、インドネシア、ネパール、ミャンマーというアジア出身者を中心とした外国出生新登録結核患者が上昇傾向にあることが分かる。

外国出生者の新規に登録された結核患者の推移(出典:結核研究所)外国出生者の新規に登録された結核患者の推移(出典:結核研究所)
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 コロナの影響で、2020年~23年にかけて特に中国の患者は大きく減ったが、全体としては増加傾向にある。年間、それぞれの国の出身者が100~300人ほどの規模で新たに結核と判明している。

 結核診療に長く携わる医師の高柳喜代子氏は、現在も都内の医療機関で1日3000件近い結核検診の胸部X線写真の読影をこなす日があるという。そんな高柳氏はこう語る。

「集団感染の事例に共通しているのは、特定の施設や職場で結核患者が発生し、接触者の中で感染が広がっていくというものです。その一つは高齢者施設。高齢者の中には、過去に結核に感染し、一度治ったり、発病しないまま過ごしてきたりした人が多く、高齢になり免疫力が落ちて、結核を再発することが知られています。高齢者の結核は発見が遅れがちなので、集団発生につながります。もう一つは、海外から来日した外国出まれの20代、30代の人たちを中心とした集団での発生です」

 なぜ外国出生者の結核が日本で発見されるのか、高柳氏は以下のように続ける。

「東南アジアでは結核が依然として流行しており、母国で結核に感染した若者たちが、来日後に発病することがあります。多くは、製造業や介護の現場で働く技能実習生や、日本語学校や専門学校、夜間中学、高校などに通う学生です。留学生はコンビニや飲食店、配送業などでバイトもしています。そのため、学校や職場、シェアハウスや会社の寮などで、結核の感染が広がりやすい」

 都会にいると日常的に結核の名を聞くことはあまりないかもしれないが、東京都内で診療に当たっている高柳氏のある1日は「結核漬け」というべき1日だ。

朝:600枚の胸部X線写真を読影。高齢者が多く、結核が治癒した影や結核の再発疑いで精密検査に回る人たちが発見される。
午前~夕方:診察に移り、結核の疑いがある若いアジア人の結核菌を検出するために、痰と胃液を採取。外来診療では、学校や職場の健康診断で胸部X線写真の異常を指摘された人、結核を疑う症状がある人、結核患者と接触した人、など多くの外国出生者を診療。
夕方:日本語学校の結核検診で撮影した胸部X線写真、約2000枚を読影。左肺に大きな空洞がある結核疑いの写真、早期だが結核が濃厚に疑われる写真などが発見される。

 高柳氏は「いつか結核がゼロになった日にこの1日を振り返ると、隔世の感でしょう。都会でも結核の感染は決して珍しくはありません」と実感を込めて語る。