性感染化しているエムポックス(写真:ロイター/アフロ)性感染症化しているエムポックス(写真:ロイター/アフロ)

(星良孝:ステラ・メディックス代表/獣医師/ジャーナリスト)

 2024年にエムポックス(旧サル痘)が、2022年の世界的な感染拡大以来の感染者の急増という新しい局面に入っている。筆者は前回の記事で、強毒型の1b(グレード1)と売買春による性感染症としての伝播が問題になっていると解説した。

エムポックス急拡大の背景に「強毒型1b」と「売買春」、ゲイからヘテロに感染が広がり始めた意味(JBpress)

 その上で、アフリカの狭い地域にとどまっていた1bがスウェーデンで確認されたというニュースを受け、今後、アフリカ外にどう広がっていくかが問題になると指摘した。

 その矢先、8月21日に、エムポックスの強毒型1bがタイで確認されたという一報が入った。エムポックスの1bはまだ全容がつかめておらず、感染者がどのように広がりを見せているのか実態は見えない。そうした中、タイで確認されたことは警戒すべき状況と考えられる。ここでは、その意味を考察する。

欧州の66歳がエムポックス1bに

 地元のBangkok Postによると、タイ保健当局はアフリカから帰国した66歳の欧州人男性がエムポックスのクレード1bに感染している可能性があると発表した。

 この男性はアフリカでの勤務を終えて、8月14日に中東経由でタイに到着。到着翌日に発熱と発疹が確認され、病院を受診したという。こうした経緯から、感染拡大のリスクは低いと見なされている。

 このBangkok Postの報道時点では遺伝子検査の結果待ちだったが、その後の報道で、22日夜に1bであると確認されたことが明らかになった。

 欧米の報道ではアフリカのどの国を訪問したかは不明と報じられているが、日本の報道ではコンゴ民主共和国から帰国したという報道も見られる。ここは確認できないが、アフリカを出てタイに最近アフリカで出現した1bが侵入したことが確定した。

 同じ飛行機に搭乗していた43人の乗客に対して、21日以内に症状が現れた場合はすぐに医師の診察を受けるよう注意を促している。現在のところ隔離をされているわけではない。

 報道では、従来伝えられているように、クレード1b株が、従来、世界に広がっていたクレード2と比べて感染力が強い点を説明している。併せて、通常は症状が現れた後に他人に感染するウイルスであるため、感染者と密接な接触を持たなければ広がりにくいことも付け加えている。

 さらに、感染者が治療に頼らずに回復する場合が多いものの、免疫力が低下している場合や合併症が発生した場合、重篤化する可能性があるという。

 実際、2022年の世界拡大の際には、米国などではヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者で、全身に発疹ができて死亡に至った事例が報告されていた。

 今回、確認された欧州男性は症状は重くはないようだが、筆者としては、こんなに早くアフリカからタイまで広がるのか……という印象を受ける。