アフリカに多い伝染病「エムポックス(サル痘)」が各国に広がっています。世界保健機構(WHO)は2024年8月14日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言し、各国に警戒を呼びかけました。エムポックスは2022年にも欧米などで感染者が相次ぎ、WHOは緊急事態を出しています。緊急事態宣言は2年ぶり2回目ですが、今までと違い、今回は重症化リスクの高いタイプのウイルスも拡大しているのです。エムポックスとはどんな感染症なのでしょうか。現在、何が起きているのでしょうか。やさしく解説します。
(情報は2024年8月18日現在)
アフリカ発の感染症、ヒトでは天然痘に似た症状
エムポックスはもともと「サル痘(Monkeypox)」と呼ばれていた伝染病です。国内では2023年2月に感染症法上の名称が「エムポックス(Mpox)」に変更され、統一的にこの名称が使われるようになりました。
この病気が初めて確認されたのは1970年。場所は中央アフリカのザイール(現・コンゴ民主共和国)でした。これまでの研究によると、ウイルスのタイプは2つ。
1つは強毒性のコンゴ盆地型(グレード1)で致死率10%程度。もう1つは弱毒性の西アフリカ型(グレード2)で致死率3%程度です。
このウィルスは元来、アフリカに生息する齧歯(げっし)類を自然宿主としていましたが、ヒトやサルやプレーリードッグ、ウサギなども感染することがわかっています。
ヒトがエムポックスに感染すると、天然痘と似た症状を発症します。
感染すると、多くの場合、発熱や寒気、悪寒、倦怠感・だるさ、リンパ節の腫れ、頭痛、筋肉痛などの症状が現れます。最大の特徴は水ぶくれを伴う発疹です。発疹は最初平坦ですが、内部に液体や膿がたまって膨らんでくることも珍しくありません。やがて発疹には「かさぶた」ができ、最終的にはその下で新しい皮膚ができると剥がれ落ちます。通常は2〜4週間で回復しますが、免疫不全のヒトや基礎疾患のある人などが感染すると重症化し、ときに死亡することがあります。
感染経路は、感染したヒトや動物の血液・体液、病変した皮膚などとの接触が主なものとされています。新型コロナウイルスとは異なり、ヒトからヒトへの感染は多くないとされてきました。潜伏期間は6〜13日程度とされています。
WHOのデータや厚生労働省研究班の報告によると、1970年にザイールで初確認されたエムポックスはその後、アフリカ中央部や西部の主に熱帯雨林で時折流行していました。1981〜1986年の患者発生数は338人。次の流行は1996〜1997年で、患者発生数は511人でした。
その後もコンゴ民主共和国では散発的な流行が確認されていますが、この頃はまだ、世界の耳目を引く伝染病ではありませんでした。