ワクチンが足りない

 各国も対策を急いでいます。

 日本政府は関係省庁の局長級でつくる対策会議を開き、国内でグレード1の感染者が出た場合の検査体制などを確認しました。国内では2024年になって15人の感染者が報告されていますが、グレード1は確認されていません。また、重症者が出た場合は、国立国際医療研究センター(東京)などで全国7カ所の医療機関で治療に当たることにしました。

 また、外務省はエムポックスが流行しているアフリカの国々を対象に、「感染症危険情報」を出しました。コンゴ民主共和国のほかに、ブルンジ、ケニア、ルワンダ、ウガンダ、コンゴ共和国、中央アフリカ共和国の7カ国。4段階で最も低いレベル1ですが、「特別な注意が必要」としています。

 中国も対策強化を決めました。コンゴ民主共和国など感染地域からの入国者に対しては、その事実や感染者との接触の有無といった事柄について申告を義務付け。感染地域から持ち込まれる車両やコンテナ、物品については衛生処理を必須としました。また、欧州連合(EU)の疾病予防管理センターはエムポックスのリスク評価を「低い」から「中程度」に引き上げ、感染の拡大に警戒を怠らないよう呼びかけています。

 一方、国際支援団体は、流行地域のアフリカではワクチン不足が深刻で、検査体制も十分に整っていないとして危機感を強めています。米国疾病対策センター(CDC)によると、アフリカ全体では少なくとも1000万回以上のワクチンが必要とされていますが、エムポックス用のワクチンを製造しているのはデンマークと日本の製薬企業しかなく、必要量の確保は容易ではないでしょう。

 今後、エムポックスの感染はどこまで広がるのでしょうか。

 見通しは困難ですが、WHOが2度目の緊急事態を宣言したことによって各国はモニタリングを強めており、現状では捕捉されていない感染者が次々と見つかる可能性があります。国境を超える人の移動も急激に増えていることから、感染が一気に広がる可能性も捨てきれません。

 国際社会が直面している伝染病は、エムポックスだけではありません。変異を続けて今なお流行している新型コロナウイルス、さらにはエボラ出血熱やデング熱など数多くの病気が今も大勢の人を苦しめています。他方で天然痘のように予防・医療の進歩で人類が克服した病気も少なくありません。エムポックスについても各界の知恵を結集した戦いが続くはずです。

フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。