117カ国で感染報告、「爆発的拡大」

 エムポックスが世界的な問題となったのは2003年のことです。

 アフリカ大陸以外にエムポックスウイルスの保有動物はおらず、域外での感染は報告されていませんでしたが、この年、初めてアフリカ以外でヒトへの感染が見つかりました。

図:フロントラインプレス作成
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 ペットとしてアフリカ西部のガーナから米国に輸入された齧歯類のサバンナオニネズミやアフリカヤマネ。そこから、家庭用ペットのプレーリードッグに感染が広がったのです。そして、そのプレーリードッグの飼い主が次々と感染しました。幸い、広がったのは弱毒性ウイルスだったため、感染した米国民71人に死亡者はいませんでした。

 次に問題となったのは、2022年5月のこと。欧米を中心に感染者が続出したのです。しかも集団発生が各地で同時に多発したことなどから、WHOは同年7月、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言し、各国に対策の強化を求めました。

 WHOによると、世界的な流行が始まった2022年から2024年1月までの感染報告は9万3921件に達しています。死者は179人で、感染が報告されたのは117カ国・地域。このうち110カ国はそれまで感染者を出したことがありませんでした。その事実も爆発的な感染拡大を示すものです。

 2022年の流行では、日本国内でも感染者が出ています。第1号は同年7月、東京都内の30代男性で、6月下旬に欧州へ渡航していました。その後、感染例は続々と報告され、2023年末までに237人の感染が報告されました。また、2023年12月にはHIV(ヒト免疫不全ウイルス)患者だった埼玉県の30代男性がエムポックスウイルスに感染し、死亡。日本初の死亡例となりました。

 もっとも、2022年に始まったエムポックスの流行は、そのほとんどが弱毒性の西アフリカ型ウイルス(グレード2)とされており、患者が重症化したり、死亡したりするケースはそれほど多くありませんでした。WHOの緊急事態宣言も2022年5月の発出から1年足らずで終息しています。

 それに対し、2024年になってからは、致死率の高い強毒性のウイルスがアフリカで急速に広がってきました。目下の状況を詳しく見ていきましょう。