>>【地図ギャラリー】最初は局所的だったのに……地図で見る感染地域の変遷
(星良孝:ステラ・メディックス代表/獣医師/ジャーナリスト)
WHO(世界保健機関)は8月14日、エムポックス(Mpox、旧サル痘)に感染した人々がアフリカで急増していることから、2022年7月以来、約2年ぶりに「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC、Public health emergency of international concern)」を宣言した。
エムポックスは元々アフリカの齧歯類が持つ感染症である。これがわずか2年で世界に約10万人の感染者を出し、いったん落ち着いていたものの、24年に入って急加速した。いったいなぜ拡大が再開し、何がおきているのか、獣医学の観点も踏まえつつ、解説する。
まずは最近の状況をおさらいしよう。
エムポックスはアフリカの一部流行地域で発生するのみで、世界的にほとんど報告されない感染症であった。ところが、2022年から世界的な感染拡大が起き、わずか約2年間で世界で9万9518人の感染者が出るまでになった。
この時の死亡者は207人で、通常致死率が高い感染症ではないものの、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染者で重篤化するほか、外見に大きな影響を及ぼすなどの理由で大きな脅威となった。
流行地域についても、アフリカの流行地域での感染者は4322人、死亡者も31人と、感染者のほとんどはもともと感染が多かったアフリカ以外の場所だった。2年前はアフリカでの発生のほうが少なかったわけだ。
その状況は、2024年に入ってから急転した。
8月14日のWHOのPHEIC宣言によると、アフリカの流行地域で1万5600以上の感染例、537の死亡例が報告された。PHEIC宣言の背景には、エムポックスのアフリカでの急増がある。
ただし、この数字は単純に医療機関でPCR検査された結果を積み上げたものではない。
55カ国から構成されるアフリカ連合(AU)トップが8月17日に出した声明によると、同地域では1万7541の感染例が報告されたが、このうち感染確定例が2822例、疑い例が1万4719例と説明された。死亡例は517だ。
アフリカでは検査器具が十分に行きわたっていないため、多くは疑い例として処理されている。確定例はごく一部に限られ、大多数は医師など医療関係者が目視などで判断し、疑い例となっている。
裏を返せば、確定できないケースが多く、疑い例とさえされていない感染者が多く存在する可能性もある。全容は把握されていない可能性もあり、エムポックスの感染拡大は数字で示されない規模である可能性も否定できない。
実際、感染拡大のペースは過去の延長線上にないほど急速だ。