コンゴ民主共和国の感染者の症状が顔に出た理由

 ここまで見てきたように、ウイルスはコンゴ民主共和国周辺と、ナイジェリアなどの西アフリカ周辺で分かれて流行が起きていた。

 もともとコンゴ民主共和国を中心に流行していたウイルスは、クレード(系統群)1、ナイジェリアなどで広がっていたのはクレード2というグループに分類されていた。もともとクレード1は感染しやすく症状が重く出る強毒型、クレード2は感染しづらく症状が軽い弱毒型と見なされていた。

 ただ、クレード1は子ども中心とした「ブッシュミート」を起点に細々と感染が広がっていたと考えられている。これは経済的な困窮が影響していると見られている。

 ブッシュミートとは文字通り、森林地帯の野生動物の肉を食用にするもの。エムポックスのウイルスがどの動物により保たれているかは不明だが、野生ではリスが持っていると疑われている。

 コンゴ民主共和国の研究によると、30代よりも10代の方がリスを食べた経験があると回答しているように、経済的な困窮などを背景に、若い層がブッシュミートに手を伸ばしているという現実がある。

 コンゴ民主共和国では、エムポックスの感染者の半数が15歳未満と報告されているが、それはエムポックスウイルスを持つブッシュミートに接する機会が多い年代であることが関連すると考えられていた。

 コンゴ民主共和国では、エムポックスの症状が主に顔に出たというのは、食習慣と関係したことが予想される。

 しかも、種痘の廃止に伴い、天然痘と同じウイルス属に分類されるエムポックスのウイルスに対する免疫が低下し、種痘の接種を受けていない40代より下の世代には感染しやすくなっていると見られている。

 医療施設のインフラが整っておらず、体液の付いた寝具からエムポックスの感染が広がったという指摘もある。

 それに対して、ナイジェリアでは、石油や農産物の生産が活発であり、約2億人を擁するアフリカ最大の人口を有する国。ここで広がっていたクレード2は感染力は弱いものの、男性同性愛者の性行為など新しい感染形態が出てきたことで、渡航者を通じてアフリカ外でも感染が報告され始めた。

 それが2022年に一気に爆発したと考えられる。2022年から欧米などで広がったウイルスは変異が確認され、西アフリカで広がっていたものは2a、欧米などで広がったものは2bと分類されるようになった。主に男性同性愛者の性行為で広がっていたのは2bだった。