2022年感染と2024年感染の決定的な違い

 また、コンゴ民主共和国でそのような性産業が存在するかだが、同国の2020年報告の研究によると、有償セックスが男性の18%、女性の4%に確認されたことが報告されている。

 感染経路のキーワードとして、売買春と異性愛者間の性交渉が急浮上しており、もともと家庭内感染がメーンだったコンゴ民主共和国周辺のエムポックスが変質し、国を超えて急拡大するようになったと考えられる。

 この点は、2022年の欧米やアジアを含む世界的に流行とは様相が異なるところだ。

 2022年5月に英国でナイジェリアからの渡航者でエムポックスの感染が見つかり、その後、渡航歴のない人たちの間でもエムポックスの感染が確認されるようになった。

 また、その年の5月以降、米国をはじめエムポックスが確認され、アジアにも広がり、冒頭のように2024年までにアフリカの流行地域以外で10万人近くまで急拡大した。

 この欧米、アジアの特徴は男性同性愛者間の感染がメーンだったことだ。95%が男性の同性愛者間の性交渉が感染経路と報告されていた。

 これが明らかになったのも、研究報告があったからだ。誰が感染しているかを、欧州をはじめとした研究者が続々と分析し、当初は意外性をもって受け止められたが、ほぼ100%が男性と性交渉するゲイであると判明したのだった。

 このため発疹のでき方も、従来、アフリカで報告されていたのは顔にできるというものだったが、欧米などでは肛門周辺や性器に発疹が現れていた。これは肛門性交といった性交渉と関係があると考えられた。

 筆者が取材したところ、同性愛者の出会いの形態の変化が、感染拡大の背景にあったようだ。

 同性愛者の人気のマッチングアプリは利用者が1000万人を超えており、同性愛者の出会いを容易にするプラットフォームとして定着している。こうしたアプリのGPS機能を使えば簡単にパートナーを見つけることができるため、発展場やクルージングスペースなどと呼ばれる場所での出会いは活発になっていた。

 もちろん、すべての同性愛者が性行動に積極的ではないが、不特定多数や複数を相手にした性交渉を日常的に行う層が一定存在していたのは確かだ。事実、アプリと複数人相手の性交渉という地盤の上で、エムポックス感染が広がったのではないかと、ある同性愛者が推測していた。

 こうして2022年5月以降の流行は、世界的に問題になり、7月にWHOがPHEICを宣言し、世界で予防のためのワクチン接種が広がり、鎮静化に向かった。とはいえその後もエムポックスの発生は散発し、日本でも定期的に報告された。

 このように2022年の感染拡大は同性愛者間の性交渉が感染を広げる要因になったが、2024年のアフリカの感染は性産業や異性愛者間の性交渉が感染ルートの中で重要な位置にあると見られる。

 つまり、前回の流行と今回の流行は、性質が異なることが分かる。