売買春で性感染症化するエムポックス

 アフリカ疾病対策センター(アフリカCDC)は8月10日の時点で、1週間で新たに6カ国に広がったと説明したが、AUトップによる8月17日の声明では、さらに1週間で新たに3カ国広がったと説明していた。

 アフリカの国々にエムポックスがなぜこんなに早く広がっているのか。コンゴ民主共和国の周辺国であるルワンダやウガンダ、ケニアなどでの発生が報じられている。

 急拡大の謎を解くカギは、ウイルスの性質が大きく変化したことにある。

 直近の報道を見ると、アフリカでのエムポックスは「家庭内の感染」「乳幼児で広がっている」といった説明がなされていることが多い。欧米やアジアなどでは、エムポックスの95%が男性同士の同性間性行為で感染が広がっており、その事実と対照的だということを強調しているのだろう。

 ただ、家庭内感染で国を超えてそう簡単に広がるとは考えづらい。

 家庭内感染とは、後述するが古い情報に基づいていると考えるべきだ。実は2024年に入ってから、これまでアフリカの流行地域では報告されていなかった性感染症としてのエムポックスの広がりが確認されているのである。

 この点については、コンゴや欧米などの国際グループが2024年3月に発表した査読前論文で詳しく報告されている。「アフリカにおけるエムポックスの主要な感染ルートが売買春によるものである」という実態が明らかにされているのだ。

 この研究は、2023年8月にコンゴ民主共和国の東部キヴ州で発生したエムポックスの多数感染に注目し、この感染者に調査して感染経路を調べたもので、コンゴでの広がりを社会的な背景まで掘り下げて調べた貴重な存在だ。調査対象は症状を示す入院患者で、カルテや面談により感染経路が分析された。

 その結果、対象の51人のうち37人(73%)がエムポックスの感染が検査により確認された感染確定例だった。そのほかは疑い例などとなる。

 症状は発熱が75%、発疹が88%。41%が口腔内病変、63%が肛門や生殖器病変を引き起こしていた。

 感染者の中で目立った職業が性産業に従事する女性で、全体のほぼ半数となる24人を占めていた。

 これも関連していると考えられるが、感染者の特徴は、異性愛者間の性行為が感染の主要な経路だったこと。92%が異性愛者で、感染者の61%が過去6カ月以内に複数パートナーと性的接触があったと報告された。

 これらのデータは、売買春がエムポックスの拡大において極めて重要な役割を果たしている事実を浮き彫りにしている。感染対策として、性産業への対策は急務だ。

 この研究は査読前の段階にあるが、後述する論文も含め、エムポックスの性感染症化は確度が高くなっている。