謎に包まれる1bの脅威

 それに対して、2024年になって、アフリカにおいて報告されるようになったのがクレード1が変異した1bである。この1bが性感染症として広がりを見せている点が、これまでの感染拡大とは異なるところである。このクレード1bが今後どのように影響を及ぼすかが注目されている。

 ただし、エムポックスの1bについてはまだほとんど詳細が分かっていない。今年に入って、ごく少数の論文報告がされるようになったにとどまっている。

 2024年6月に発表されたネイチャーメディシン誌において論文では、コンゴ民主共和国東部で新たに発見されたクレード1bの脅威が詳細に報告されている。

 この研究では、2023年9月から2024年1月にかけて、コンゴ民主共和国の鉱山地域で発生したエムポックスの感染拡大を扱っている。感染の疑い例は241件、このうち108件がPCRでエムポックスウイルス陽性(確定)となり判定された。

◎aの地図で紫色のクレード1bが東部に出現したのが明らか。bの系統図ではクレード1bが全く異なるもの系統に分かれている(出典:https://www.nature.com/articles/s41591-024-03130-3/figures/1)aの地図で紫色のクレード1bが東部に出現したのが明らか。bの系統図ではクレード1bが全く異なる系統に分かれている(出典:Mapping number of reported mpox cases and genomics analysis, Kamituga, DRC.
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 遺伝子解析の結果、これらのウイルスはクレード1から分岐した新たなクレード1bに属するものと判断された。

 クレード1bは、これまでのクレード1とは異なる変異パターンを持ち、人から人への持続的な感染が続いていることが確認され、しかも性感染症として広がっている可能性が考えられる。というのも、感染者の約52%が女性で、約29%が性的な労働者で、性感染症としての側面が強いことが示されたからだ。

 冒頭に紹介した論文で示された感染者の特徴と、今回のウイルスの特徴は矛盾しない。

 そうした中で、この8月、スウェーデンでエムポックスの感染者が報告されたが、重要なのはこの人物に感染していたのが1bと報道されたことだ。

 もともとアフリカ以外にも、エムポックスの感染者は多数報告されており、その多くは2bだったため、2bの感染者が報告される分には2022年以降の状況と変わらない。

 例えば、スウェーデンの事例の後、フィリピンでエムポックスが報告されたというニュースがあったが、それは2bだったと伝えられている。これは従来の延長線上だ。

 ここまで見ると分かる通り、問題となるのは、強毒型とされる1bがどれだけ感染を拡大するかである。1bはもともと感染しやすく症状が重いことが知られている。しかも、性産業で異性間愛者間の感染を起こしているという点が、大きく異なっている。

 1bは今のところ広がりを見せてはいないが、十分に警戒が必要な状況にある。

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Sustained human outbreak of a new MPXV clade I lineage in eastern Democratic Republic of the Congo
なぜ今サル痘?人口大国ナイジェリアでの39年ぶりの流行勃発が示唆する未来(JBpress)
WHOがサル痘に緊急事態宣言、なぜゲイの間で爆発的に感染が増えているのか(JBpress)

星 良孝(ほし・よしたか)
ステラ・メディックス代表取締役/編集者 獣医師
 東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPにおいて「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年に会社設立。獣医師。
 ステラ・メディックス:専門分野特化型のコンテンツ創出を事業として、医療や健康、食品、美容、アニマルヘルスの領域の執筆・編集・審査監修をサポートしている。また、医療情報に関するエビデンスをまとめたSTELLANEWS.LIFEも運営している。
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