(星良孝:ステラ・メディックス代表/獣医師/ジャーナリスト)
日本麻酔科学会が10月16日に怒りの声明を発表した。バラエティー番組において、娯楽目的のために麻酔薬のプロポフォールが使われたからだ。
麻酔薬プロポフォールは、マイケル・ジャクソンが麻酔事故で死亡した際に用いられたことで知られている。麻酔が効くと呼吸が抑制され、命に関わるリスクがある。そんな芸人が死んでもおかしくない麻酔薬をバラエティーで使用したと聞いたときは、大きな衝撃を受けた。
どうやらこの問題は、内視鏡検査での麻酔薬の使用とも関連している。そこで、医療の観点も踏まえてこの問題について考察する。
麻酔で死亡を演出
今回、問題になったのは、Amazon Prime Videoが配信開始した「KILLAH KUTS(キラーカッツ)」。この番組は、TBSのバラエティー番組「水曜日のダウンタウン」で知られる藤井健太郎氏が手掛けた。
エピソード2「麻酔ダイイングメッセージ」では、芸人に麻酔薬プロポフォールを注射し、意識がもうろうとする状態を死亡直前の状況に見立て、その状態をバラエティー内の劇に活かしている。
そこで番組を視聴すると、冒頭、番組からの注意書きが現れた。
「当番組における麻酔の投与は胃カメラ検査を目的とし医師による監修のもと安全性に配慮した上で通常の検査で行われる方法と同様に実施しております。また番組の性質上ご覧になられる方によっては一部不適切と感じられる場合がございます。予めご了承の上お楽しみください」(*原文ママ)
番組は予定よりも公開が遅れたと報じられているので、このメッセージがどの段階で挿入されたか分からないが、炎上は想定されていたわけだ。「地上波で放送できない企画」というのがコンセプトで、過激さを追求した内容になっている。
番組では、「死ぬ瞬間を麻酔で再現できる」という考え方で麻酔を使っている。“検査のついで”に死ぬ間際の人物を演じることを念入りに示され、胃カメラ検査の際に麻酔薬の注射が行われる。注射薬を使うことで意識を1分ほどで失う。
番組としては、芸人が刺され、犯人の情報を特定する手がかりとなるようにダイイングメッセージとしてメモすることが求められる。麻酔薬を使われた芸人は犯人の情報を記述するが、薬が効き始めたことで意識が遠くなり、記述することが難しくなる。意識をなくした時点で「死亡」と示される。
その後、鼻から入れる内視鏡が行われている様子が示される。3組の芸人が、毎回、違ったシチュエーションの劇を演じて、麻酔薬を打たれ、同じように犯人当てるというチャレンジがある。
この番組の中で、本当に麻酔がかかることから、殺される役はもうろうとし、その様子が映し出される。薬の作用なので当然のように、わざとらしいところがなく、人間の理性が失われてしまう様子が笑いに変わる。
実際に医療現場で麻酔された殺される役は呂律が回らなくなり、芸人によっては無意味な言葉を口走ることもある。想像するに、実際の医療現場で、麻酔薬が効くことで呂律が回らなくなるところを目の当たりにして、滑稽さをかんじたことが発想のきっかけだったのかもしれない。ばかばかしさを追求した果てに麻酔というアイデアが出てきたのだろう。