麻酔科医が足りない日本の医療事情

 内視鏡検査におけるプロポフォールの使用はごく限定的と言えるだろう。正当化する理由として許容されるとは言いがたい。

 今回の番組にかかわらず、筆者には「麻酔は危ない」という認識が一般には十分に浸透していないという問題意識を持っていた。多くの人々は麻酔を「痛みや感覚をなくすための一時的な薬」と捉えていないかということだ。

 麻酔には呼吸抑制などの重大な副作用が起こるケースがあり、特にプロポフォールのような静脈麻酔薬は適切な管理が欠かせない。

 薬の危険を強調するためにあえて獣医学の観点を持ち出すと、動物は麻酔の影響が強く出ることが多く、麻酔は命に関わるリスクが高いという認識がより強い。

 麻酔を慎重に考えるべき背景には、日本の医療事情も関係する。

 麻酔科医が関われば安全性は高いかもしれないが、内視鏡検査の件数が多く、自費診療の負担が増えることなどもあり、日本では麻酔科医を内視鏡検査に配置することは難しい場合が多いと推定される。

 ガイドラインにおいて、非麻酔科医が自分で麻酔を行っても安全かどうかが検討されているのも、そうした現実的なシチュエーションを念頭に置いているだろう。今回の番組でも、外科医と精神科医が医療監修に関わり、麻酔科医は関わっていない。

 以前に筆者は、無痛分娩の問題についても伝えているが、日本では麻酔科医が不在であることが多く、無痛分娩を麻酔科医抜きで行うリスクが指摘されている。

 そこから引用すると、「麻酔科医と異なり、産科医は気管挿管をする機会がほとんどないため、過去に手技のトレーニングをしていたとしても、どうしても場数が足りない。妊婦の場合、むくみなどの影響で、麻酔科医でも気管挿管が難しいことが多い。分娩時の呼吸停止が起きたときの救命は難しくなってくる。今後、無痛分娩補助が出た場合に心配されるのは、新規で麻酔を始める産科医が増えること。昔から麻酔を扱ってきた産科医とは異なり、事故対応ができない可能性があり、心配される」とある。

 内視鏡検査でも同様に安全性の懸念があると考えられる。万が一、プロポフォールを使った場合に、呼吸抑制が強く出て呼吸が不可能になった場合、気管挿管が安全に行えるかには懸念がある。