この9月、厚生労働省が、自己増殖型mRNAワクチン、いわゆる「レプリコン・ワクチン」を承認した。10月から接種開始となる。
レプリコン・ワクチンを巡っては、名前の通り自己増殖型という新しい仕組みを持つこともあり、接種した後にワクチンの成分がいつまでも増え続けて、体内に想定外の悪影響をおよぼすのではないかという懸念が広がっている。
しかも、海外の他国ではまだ承認されておらず、日本で初めて実用化されることもあって、不安の声が助長されているところもある。一般の人ばかりではなく、医療関係者からも不安の声がある。
一方で、ネット上にある情報は、断片的なものが多く、引用文献の扱いも不十分なものも目立つ。本当にその心配は的を射ているのだろうか。
獣医師資格を持ち、医療分野のジャーナリストとして25年近くになる筆者としては、もう少し確度の高い情報を提示すべきだと感じている。
そこで、今回は原典に当たった上で、レプリコン・ワクチンの承認プロセスなどについて中立の立場にあるワクチン研究の第一人者、東京大学医科学研究所ワクチン科学分野教授の石井健氏にも取材し、レプリコン・ワクチンを巡る不安に答えていく。(星良孝:ステラ・メディックス代表/獣医師/ジャーナリスト)
検証する上で当たるべき2つの原典
石井氏は、レプリコン・ワクチンに関する懸念が挙がっていることについて、次のように述べた。
「メディアでワクチンに対する不安を煽る記事が増えている現状ですが、私の研究や論文を基にした見解をお話しすると、現時点ではワクチンに重大な問題があるとは考えていません。ただし、新しい技術に対する不安は当然のことで、そのような懸念が出ることについては理解しています」
コロナ禍で多くの人が不安を感じたと思うが、ワクチンを巡ってはさまざまな議論が出る傾向にある。レプリコン・ワクチンについても多くの意見が出ているが、ネット上にある懸念の中で重大だとされているのが、レプリコン・ワクチンを接種すると死亡のリスクが高まるという指摘だ。これについてまずは検証する。
この懸念については、大きく2つの原典に当たることでどういうことかを理解することができる。
・レプリコン・ワクチンの安全性と有効性を確かめた臨床試験の論文
・レプリコン・ワクチンの日本での承認審査に使われた承認審査報告書
最初に臨床試験を検証しよう。