「安全性」と「安心」の違いをどう考える?

 石井氏が強調するのは次の点だ。

「ここで重要なのは『安全性』と『安心』の違いです。安全性は科学的に確認されたものですが、安心感はそれに基づく心理的なものです。例えば、mRNAワクチンが最初に登場した際には、その安全性に対する不安が広がりましたが、リアルワールドデータ(実際に広く使われたデータ)が蓄積されるにつれて、徐々に安心感が高まりました。この安心感が完全に得られるまでには時間がかかります」

 つまり、臨床試験などから「安全性」が確認されても、その後、実際の使用過程でデータが蓄積されることで、「安心」が得られる。

「治験で確認された安全性や有効性は非常に重要ですが、ワクチンが広く使用されることによってリアルワールドデータが蓄積され、さらなる検証が行われます。例えば、mRNAワクチンで確認されたアナフィラキシーや心筋炎のような副作用は、治験段階では十分に検出されないことがあります。これらは実験的に検討するのは難しいことが分かっています。実際に多くの人々が接種することで、これらのまれな副作用が明らかになってくるわけです」(石井氏)

 逆に言えば、副反応が問題視されることで、そのワクチンは普及しないという結果も当然ある。

 石井氏は、「実際、コロナワクチンの中でも、アストラゼネカやジョンソン・エンド・ジョンソンののワクチンはアデノウイルスというウイルスを使用しましたが、血栓症のリスクが市販後の調査で確認されました。結果として、普及しませんでした」と解説する。

 今後、レプリコン・ワクチンが、これまで観察されていない副反応を伴うことがあれば、そもそも普及していかない可能性もある。

「シェディング」や「エクソソーム」など、自己増殖したワクチンが体外に排出されるという指摘もネットなどの意見では目にすることがある。

 石井教授は、「シェディングやエクソソームに関する懸念は、従来のウイルスベクターワクチンでも同様でしたが、理論的には理解できるものの、現実にはリスクが非常に低いです。これらの懸念を科学的に証明するためには動物モデルが必要ですが、低頻度で起こり得る事象で、動物モデルでの検証は困難です」と述べる。

 こうした面での安全性を確かめるためにも、リアルワールドデータは重要になる。確かに懸念はあるが、ごくまれに起こるものを過剰に重く見て、有望な技術を反故にするのは賢明とは言えない。

「実際に広く使用された後のデータにより、懸念が科学的に検証され、データが蓄積されることで、最終的には不安を解消していくのが重要と考えています」(石井氏)