成人式を終えてまもなく、彦根市で乗用車にはねられ亡くなった坂本瞳さん(遺族提供)
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(柳原 三佳・ノンフィクション作家)

 自殺や他殺、特殊清掃が必要となるような「人の死」が発生したアパートやマンション、一戸建てなどの不動産物件のことを「事故物件」といいます。事故があったことを知らせずに売ったり貸したりすることはできません。

 販売者は発生から3年が経過するまで、入居希望者にその事実を告知することになっており、国土交通省が出している『宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン』には、買主や借主にとっての「心理的な欠陥(瑕疵)」を考慮する必要性について、その趣旨や背景が詳細に記されています。

 では、車における「事故物件」、たとえば、ドライバーや同乗者が交通事故で亡くなったり、車内で排ガス自殺を図ったりした車、また、人を死傷させた加害車両などは、中古車市場でどのように扱われているのでしょうか。

車の場合、「人の死」が絡んでいても告知する義務なし

 実は、中古車販売時には「修復歴の有無」の告知は必要とされていますが、なぜ修復が必要になったのか、その理由説明までは求められていません。

 販売する側には「人の死」に関する告知の義務はないため、いったん流通すれば、買う側はその車の履歴を知ることはできないのです。つまり、中古車市場には「人の死」が絡んだ車も普通に流通しているということになります。

 ここで取り上げるのは、ある遺族から届いた訴えです。

「娘をはねた加害者は、取り調べでは『事故車は廃車にしました』と言っていました。私たちはてっきり、娘の命を奪った車は『スクラップ』にされ、もうこの世に存在しないのだと思っていました。それなのに……」