「一時抹消登録」も“廃車”?

 Aは、事故から4か月後の7月6日、彦根警察署でとられた供述調書でこう述べていました。

「私が運転していたエスティマは、すでに廃車にしました」

 9月18日には大津地検彦根支部の検察官の取り調べでも、

「私は事故を起こした車を廃車にし、事故後、車を運転しておらず、通勤など、徒歩と電車で移動しています」

 と供述しています。

 では、「廃車にした」というAの供述は虚偽なのか……、というと、そうとは言いきれないようです。自動車業界では「一時抹消登録」も、広い意味で廃車手続きの中のひとつとされ、「再び使用する可能性がある車」ということになっているからです。

 しかし、中弁護士はこう指摘します。

「『廃車』という言葉を新明解国語辞典で調べると、『古くなったり壊れたりして使わないことにした自動車』とあります。一般的には自動車として役目を終えている、つまりスクラップにされたと理解するのが普通だと思います。ご遺族はもちろん、おそらく、捜査機関も裁判所もそう認識していたのではないでしょうか」

 登録事項証明書によれば、Aは、自身が勤めている自動車販売会社で2016年にクレジットを組んでエスティマを購入。2020年3月に本件死亡事故を起こし、5月1日に一時登録抹消した段階でクレジットを清算していました。筆者がAの勤務先であるディーラーに確認したところ、この車は中古車としてオークションにかけられていたことがわかっています。