「やるべきことが山積みなのになかなか行動に移せない」「つい後回しにしてしまう」…。実はこの後回し癖は個人の性格の問題ではなく、「脳が怠け者」だからだという。現役脳神経外科医として医療に携わる一方で、テレビにも多数出演する菅原道仁氏の著書『すぐやる脳』(サンマーク出版)には、脳の性質を踏まえた上で「やる気を出す」ヒントが書かれている。
(東野 望:フリーライター)
どんなに「勤勉」な人でも脳は怠けたがる
筆者の菅原氏は、私たちの脳の「性質」についてこう説明する。
誤解を恐れずに定義すると、脳とは「怠惰で、流されやすく、誘惑に弱い」。(中略)それは、どんなに「優秀」とされる人の脳でも、どんなに「勤勉」と称される人の脳であっても、本質的なところでは同じです。
怠けようとするには理由がある。脳は非常に燃費が悪く、身体が1日に必要とするエネルギーの約20%を脳だけで使用しているそうだ。そのため少しでもエネルギーを節約しようとする。さらに「周りが何もしないのであれば、自分も何もしたくない」と流されやすく、周囲の誘惑にも弱いといった性質を持つ。
とすると、脳の性質なのだから「意志が弱い」と自分を責める必要はない。さらに「誰しもが同じ」という言葉に思わずホッとするが、安心しているだけでは後回し癖は治らない。
怠惰で不真面目な脳を、いかに効率良く動かすかといった「仕組み」が必要なのだが、どうすれば脳にやる気を出させ続けられるのだろうか。
脳にやる気を出させることは可能?
脳にやる気を出させる鍵となるのは「ドーパミン」。脳内で作られる神経伝達物質の一つだ。本書の中では、成功者として野球選手のイチロー氏を例に挙げている。
幼少期のイチロー少年が、練習中に「できた!」「うまくいった!」と感じた瞬間。その都度、脳では快楽物質「ドーパミン」(dopamine)が、報酬(ご褒美)として出ていたはずです。
つまり、成功体験を通じてドーパミンによる「強烈な気持ち良さ」を脳に覚えさせるのである。成功体験が得られるまでには苦労や困難が伴うことが多いが、一度快楽を味わった脳はまた快楽を得たいがために、苦労や困難を克服しようと活性化する。
イチロー氏のような成功者は、幼少期からこのような脳の使い方を意図せずにおこなってきたと考えられる。菅原氏によると、我々一般人も「ドーパミン・コントロール」で彼らのような脳の使い方を取り入れ、「やりたくない脳」を「やりたがる脳」に変えることが可能だという。