幼い頃から本の虫だった文芸評論家の三宅香帆氏は、IT企業に就職してまったく読書ができなくなった。週5フルタイムで働き、疲れ、通勤電車や就寝前に本を開いても、ついSNSやYouTubeをぼーっと眺めてしまう。なぜ、働いていると本が読めなくなるのか? 誰もが漠然と感じている疑問に真正面から向き合い解を探った。(JBpress)
(*)本稿は『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅香帆、集英社新書)の一部を抜粋・再編集したものです。
■なぜ働いていると本が読めなくなるのか
(1)週5フルタイムで働き、疲れ、本を読みたくてもSNSやYouTubeをぼーっと眺めてしまう、そんな生活おかしくないか?
(2)「本を読むこと」は人生に不可欠な「文化」、ChatGPTなどAIが仕事を奪う世の中で人間らしい働き方とは
(3)男も女も全身全霊ではなく半身で働く…仕事以外の「ノイズ」も聴ける余裕が「働きながら本も読める」社会をつくる
社会人1年目、私はショックを受けていました。
子どものころから本が好きでした。読書の虫で、本について勉強したくて、文学部に進学した文学少女。でもあるとき、本を読み続けるにはある程度のお金がいることに気づいたのです。
ハードカバーも文庫本も、買い続けるにはお金がかかりました。そこで就職活動をしたところ、運良くIT企業に内定をいただけた。私はこれ幸いと就職しました。
はっきり言って、好きな本をたくさん買うために、就職したようなものでした。
しかし就職して驚いたのが、週に5日間毎日9時半から20時過ぎまで会社にいる、そのハードさでした。
週5でみんな働いて、普通に生活してるの? マジで?
私は本気で混乱しました。
こんなことを言うと、社会人の先輩各位に怒られそうです。「いやいや9時半から20時くらい、働き方としてはハードじゃないでしょ」と苦笑されるでしょう。
私も学生時代はそう思っていました。でも、やってみると案外それは疲れる行為だったのです。
歯医者に行ったり、郵便物を出したり、宅配の荷物を受け取ったりする時間が、まったくない。飲み会が入ってくると帰宅は深夜になる。
なのにまた翌朝、何事もなかったかのように同じ時間に出社する。ただ電車に乗って出社し帰宅するだけで、けっこうハードだなあ、と感じました。
とはいえ、仕事の内容は楽しかったのです。会社の人間関係は良くて、やっていることも興味があって面白い仕事でした。
しかし─社会人1年目を過ごしているうちに、はたと気づきました。
そういえば私、最近、全然本を読んでない!!!