(写真:leungchopan/Shutterstock)

幼い頃から本の虫だった文芸評論家の三宅香帆氏は、IT企業に就職してまったく読書ができなくなった。週5フルタイムで働き、疲れ、通勤電車や就寝前に本を開いても、ついSNSやYouTubeをぼーっと眺めてしまう。なぜ、働いていると本が読めなくなるのか? 誰もが漠然と感じている疑問に真正面から向き合い解を探った。(JBpress)

(*)本稿は『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅香帆、集英社新書)の一部を抜粋・再編集したものです。

■なぜ働いていると本が読めなくなるのか
(1)週5フルタイムで働き、疲れ、本を読みたくてもSNSやYouTubeをぼーっと眺めてしまう、そんな生活おかしくないか?
(2)「本を読むこと」は人生に不可欠な「文化」、ChatGPTなどAIが仕事を奪う世の中で人間らしい働き方とは
(3)男も女も全身全霊ではなく半身で働く…仕事以外の「ノイズ」も聴ける余裕が「働きながら本も読める」社会をつくる

 社会人1年目、私はショックを受けていました。

 子どものころから本が好きでした。読書の虫で、本について勉強したくて、文学部に進学した文学少女。でもあるとき、本を読み続けるにはある程度のお金がいることに気づいたのです。

 ハードカバーも文庫本も、買い続けるにはお金がかかりました。そこで就職活動をしたところ、運良くIT企業に内定をいただけた。私はこれ幸いと就職しました。

 はっきり言って、好きな本をたくさん買うために、就職したようなものでした。

 しかし就職して驚いたのが、週に5日間毎日9時半から20時過ぎまで会社にいる、そのハードさでした。

 週5でみんな働いて、普通に生活してるの? マジで?

 私は本気で混乱しました。

三宅香帆(みやけ・かほ)
1994年生まれ。京都市立芸術大学非常勤講師。京都大学人間・環境学研究科博士前期課程修了。大学院在学中から文芸評論家として活動し、文学やエンタメなど幅広い分野で批評・解説を手掛ける。著書に『人生を狂わす名著50』(ライツ社)、『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』(角川文庫)ほか。5月に最新作『娘が母を殺すには?』(PLANETS)を刊行したばかり。

 こんなことを言うと、社会人の先輩各位に怒られそうです。「いやいや9時半から20時くらい、働き方としてはハードじゃないでしょ」と苦笑されるでしょう。

 私も学生時代はそう思っていました。でも、やってみると案外それは疲れる行為だったのです。

 歯医者に行ったり、郵便物を出したり、宅配の荷物を受け取ったりする時間が、まったくない。飲み会が入ってくると帰宅は深夜になる。

 なのにまた翌朝、何事もなかったかのように同じ時間に出社する。ただ電車に乗って出社し帰宅するだけで、けっこうハードだなあ、と感じました。

 とはいえ、仕事の内容は楽しかったのです。会社の人間関係は良くて、やっていることも興味があって面白い仕事でした。

 しかし─社会人1年目を過ごしているうちに、はたと気づきました。

 そういえば私、最近、全然本を読んでない!!!