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フィリップ・モリスが2018年10月23日に発表した加熱式タバコIQOS 3(写真:つのだよしお/アフロ)フィリップ・モリスが2018年10月23日に発表した加熱式タバコIQOS 3(写真:つのだよしお/アフロ)

(文:上昌広)

加熱式タバコ「IQOS(アイコス)」で知られるタバコ企業フィリップ・モリス・インターナショナルおよび日本子会社フィリップ・モリス・ジャパンと、日本の二人の研究者の癒着を告発する報道が欧米で注目を集めている。告発者は、エボラ出血熱流行の際に医師免許を持つ異色の外交官として「国連エボラ緊急対応ミッション(UNMEER)」に派遣されたこともある小沼士郎氏だ。特に京大教授のケースは、フィリップ・モリス・ジャパンから資金提供を受けていることを明示せず加熱タバコの安全性に関する論文を発表しており、医学界での明白なルール違反だと言える。

 11月16、17日の2日間、東京都港区の建築会館で「現場からの医療改革推進協議会シンポジウム」を開催する。私と鈴木寛・東京大学公共政策大学院教授が共同で事務局を務め、医療に関わる当事者が参加し、様々な問題について議論する集まりだ。2006年に始まり、今年で19回目を迎える。過去には、福島県立大野病院事件、医療事故調査制度論争、医師不足対策、福島第一原発事故、新型コロナ対策などで、この会での議論を参加者が実行し、社会に普及したこともある。

 近年、このシンポジウムでは、医師と製薬企業の利益相反を扱ってきた。2010年代初頭に問題となったノバルティス社が販売する降圧剤ディオバンを巡る不正事件など、医師と製薬企業の癒着は国内外で枚挙にいとまがない。

 どうやら、このような問題は製薬企業に限らないようだ。最近は、医療機器メーカーと医師の癒着が相次いで事件化している。

 今回のシンポジウムで取り上げるのは、医師とタバコ企業の癒着だ。シンポジストとして登壇するのは北海道で臨床医として働く小沼士郎医師である。

欧米メディアは次々に報道

 小沼医師の経歴は面白い。1992年に東京大学医学部を卒業後、外交官試験に合格し、94年から外務省に奉職した。国際保健政策室長などを歴任し、西アフリカでエボラ出血熱が流行した際には、国連エボラ緊急対応ミッションの一環として日本政府から派遣された。

 私は小沼医師と面識がある。東大医学部卒業生には少ない、腹の据わった人物であるという認識を持っている。

 この小沼医師が、7月1日、英国の「調査報道局(TBIJ)」のインタビュー記事「科学を売り物に:フィリップ・モリスによるタバコ研究への資金提供網」(記事原文タイトルとリンク先は下記)に実名で登場し、米国を代表するタバコ会社フィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)、および日本の子会社フィリップ・モリス・ジャパン(PMJ)と、日本の二人の研究者の癒着を糾弾した。この二人は東京大学特任教授、京都大学教授であり、京都大学の教授は臨床医でもある。

【TBIJ記事タイトルとURL】
“Science for sale: Philip Morris’s web of payments to fund tobacco research,”The Bureau of Investigate Journalism (July 1, 2024).
https://www.thebureauinvestigates.com/stories/2024-07-01/science-for-sale-philip-morris-web-of-payments-to-fund-tobacco-research/

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