なぜ、小沼医師がタバコ会社を糾弾したのか。それは、彼がPMJで「癒着」の現場を目の当たりにしたからだ。
実は、小沼医師はPMJで働いたことがある。同社が提唱する「煙のない未来のビジョン」という考え方に共鳴し、2019年4月、医療・科学担当ディレクターとして就職したのだ。そこで見たのが、後述する「癒着」だった。
驚いた小沼医師は、「このことを上層部に報告したが、黙殺された」という。
小沼医師は元官僚だ。行政機構の動かし方は熟知している。東京大学、京都大学、厚生労働省、さらにタバコ会社に関わることだから財務省にも情報を提供したが、「彼らは動かなかった」(小沼医師)そうだ。その後、小沼医師はPMJから解雇される。
私がこの問題を知ったのは、海外のマスコミが報じたからだ。口火を切ったのは、英国の『ガーディアン』で、6月28日に「タバコ大手、非喫煙者を引き付けるために「科学を操作」したと非難される(Tobacco giant accused of 'manipulating science' to attract non-smokers)」という記事を掲載した。
これは、前日にオックスフォード大学出版局が発行する『ニコチン・アンド・タバコ・リサーチ』誌に英国のバース大学の研究者たちが発表した「「秘密にせよ」 流出情報はPMIとその日本支社が科学を金儲けのために不正に利用したことを示している(“Keep it a secret”: Leaked Documents Suggest Philip Morris International, and Its Japanese Affiliate, Continue to Exploit Science for Profit)」という論文を受けてのものだ。
同日には『英国医師会誌(BMJ)』、7月12日には英国の『ランセット腫瘍学』誌も、この問題を取り上げた。いずれも世界の医学界を代表する学術誌だ。この問題は、世界中の医師に知れ渡った。
別会社経由で受け取っていた資金
では、何が問題だったのか。医療界で特に問題となったのは、京都大学の教授のケースだ。この教授はPMJからの資金を、別会社を介して迂回させて受け取り、そのことを明示せずに学術誌にタバコに関する論文を発表していた。
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