「臨床試験で5人が死亡」の言説はどう解釈すべきか?

 2024年に発表された臨床試験の論文は、第1相~第3相までの試験情報をまとめて報告したものだ。医薬品は、第1相~第3相と段階を踏んで、人数を増やしながら、慎重にその安全性や有効性を確認している。

 ネット上で問題とされたのは第3b相という最終段階の試験で死亡者が出ており、これがワクチンと関連するという疑念が持たれていることだ。

 この試験を見てみると、対象者は約1万6000人とかなり多いことが分かる。試験では、対象者が2つのグループに分けられ、片方の約8000人にはレプリコン・ワクチン、もう片方の約8000人にはプラセボ(偽薬)が接種された。

 試験の期間は92日間が設定され、この間に両方のグループを合わせて合計21件の死亡が報告された。この死亡について懸念が集まっているわけだが、内訳としては、レプリコン・ワクチンの接種を受けた群では5人、プラセボの群では16人が死亡した。

 一部のネットの情報では、ワクチン接種を受けた群で5人が死亡したことが問題視されているが、プラセボ群の16人と比べると割合は少ない。

「21人死亡」という話も出ているが、それはレプリコン・ワクチン群とプラセボ群を合わせた死亡数が21人のため。ただ、プラセボ群の死亡はそもそもワクチンと関連しない。

 論文によると、死亡者のうち、ワクチン接種に関連した死亡は一件も確認されず、コロナ感染に関連する死亡が10件(ワクチン接種者1人、プラセボ接種者9人)報告された。これもワクチン接種の群の方が少ない結果となっている。

 そのほかの死亡は、がんによる死亡などで、ワクチンでこれまで問題になった心臓や血管に関わるものは、プラセボ群の大動脈解離に限られた。

※1~92日目における死亡例は、レプリコン・ワクチン群5/8059 例(0.1%、低血糖、膵炎、肺の悪性新生物、咽頭癌転移、コロナ感染が各1例)、プラセボ群16/8041例(0.2%、コロナ感染が9例、リンパ節腫脹、肝硬変、肝がん、大動脈解離、肺炎、アシネトバクター性肺炎、敗血症性ショックが各1例)

 8000人もの大勢が試験に参加すると統計的に死亡者が出ることもある。他の医薬品の臨床試験でも珍しくはない。

 ネットの言説では、5人が亡くなったという点が強調されているものも見られるが、全体の人数と死亡の割合を見ると、冷静に医薬品の安全性を評価することができる。

 後述するが、レプリコン・ワクチンは新しいものなので、今後の不確定要素はあるのだが、この臨床試験に限ってみれば、ことさら強調するのは妥当とは言えないのではないか。

 石井氏もこの臨床試験については「第1相から第3相までの臨床試験を経て、安全性と有効性は十分に確認できている」と解釈する。新しい技術を用いたワクチンの不確定要素については石井氏も慎重に見守るべきだというが、それについては後述する。