入国前の結核スクリーニングが機能していない現実

 日本国内で、外国出生者に結核が多く発生する背景には、結核が流行している国々からの入国前の結核スクリーニングがまだ機能していないという現状がある。

 WHO(世界保健機関)の資料から結核の発生状況を確認してみる。

 東南アジア諸国ではいまだに結核がまん延しており、特にフィリピン、ベトナム、インドネシアなどでは結核の発生率が依然として高い。日本では新規の結核の発生は10万人当たり年間8.2人だが、東南アジアでは10万人当たり年間100以上発生している国が多い。フィリピンは10万人当たり650人で、日本と比べて100倍近い水準で発生している。

 しかも、ここ7年の推移を見ると、東南アジアの各国の発生は5%以上増加している。

図表:各国の結核感染者の罹患率の変化。2015年と比べて22年に増加した国々は緑、減少した国は赤で表現されている(出典:WHO)図表:各国の結核感染者の罹患率の変化。2015年と比べて22年に増加した国々は緑、減少した国は赤で表現されている(出典:WHO)
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 従来、こうした外国出生の労働者や留学生について、母国で既に結核を発病していても、入国前に見つけ出すための体制が十分ではなかった。特定技能では健康診断が義務付けられているが、技能実習生や留学生には健診が義務付けられておらず、来日後に健診を受ける機会がない場合もある。

 前述の通り、外国出生者の結核患者数が急増したことから、政府は2020年に6カ国(フィリピン、ベトナム、中国、インドネシア、ネパール、ミャンマー)からの中長期滞在者には「入国前結核スクリーニング」を義務付ける方針を打ち出した。

長中期在留希望者の出国前の結核スクリーニングの仕組み(出典:厚生労働省)長中期在留希望者の出国前の結核スクリーニングの仕組み(出典:厚生労働省)
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 これを受けて、結核研究所の入国前結核スクリーニング精度管理センターが、対象国での入国前結核検診実施医療機関の査察や精度管理を実施しているが、コロナ感染の拡大などの影響で計画通りにいかず、2024年現在、まだ開始に至っていない。

「外国生まれの結核患者は今後も増えることが予想され、入国前結核スクリーニングの早期の体制整備が望まれますが、一方で途上国の医療機関のレベルには格差があるため、しっかりと精度管理しないと、結局はスクリーニングをすり抜けて、入国後に発見されるケースを防ぐことができません。そのあたりが課題と考えています」