「オレも全くそう思う。警察はクマと出会う恐怖も分かっていないんだろうな」

 Bさんの見解も筆者と同じだった。

当時もあった「クマが可哀そう」の抗議

 結局、Aさんが立件されることはなかった。状況から判断しても、不意に山中でクマと出遭ってしまい、やむを得ず闘って、クマを倒しただけだ。警察も同じように判断したのだろう。

 筆者の取材した記事が週刊誌に載った数日後、地方紙でもAさんを取材した記事が出た。その記事によると、Aさんがクマと格闘して殺したという記事を見て、Aさんの元に「クマを殺すな。かわいそう。逃げれば良かった」という匿名の手紙が届いたという。

 これだけは断言したい。山の中で、猛然と襲ってくるクマから逃げるのは相当に困難だ。もちろんクマと出遭わないに越したことはないのだが、もしも遭遇してしまったらAさんのように徹底的に抗戦して撃退するか、あるいは殺す――そういう選択をしなければならない場合もある。

 その命を懸けた行為を非難するのは、野生動物の脅威を甘く見ている人の戯言だ。