前回の記事「NHK離れを加速させる受信料制度の迷走、『割増金』は事実上の罰金か?」で、NHKの受信料制度は難題山積になっていることを指摘した。放送と配信の垣根がなくなり、インターネット事業を拡充したいNHK――。しかし、ここでも受信料問題が立ちはだかる。ネットでのコンテンツ配信が急速に拡大し、放送の優位性が揺らぐ中で、持続可能な存在としてNHKが進むべき道は受信料制度からの脱却ではないか。
(岡部 隆明:就職コンサルタント、元テレビ朝日人事部長)
置き去りにされたテレビや新聞
先日、トヨタ自動車が14年ぶりの社長交代を発表しました。日本最大の企業のトップ交代ということだけではなく、情報発信の斬新さでも注目を集めました。従来の記者会見ではなく、自社で運営するオンラインメディア「トヨタイムズ」で配信する方法を取ったからです。
この配信方式は先進的で、テレビや新聞を置き去りにしているようでもありました。私は、配信が放送にとって代わることが当たり前の時代になりつつあるという焦燥を抱きました。それは、サッカーワールドカップの全試合をABEMAが配信し、世間で話題になっていた時にも襲われた感覚です。
テレビの魅力に惹かれ、そのパワーに頼もしさと怖さを感じながら放送業界で勤めてきたので、古き良き時代に固執する残滓が自分の中にあるのだと思います。
現実は、これまで「お題目」のように唱えられてきた「放送と通信の融合」という言葉が陳腐化したと思えるほど、動画コンテンツをインターネット配信で楽しむことが日常化しています。もはや放送と配信の境界線はなくなりつつあります。
いや、宇宙飛行士の毛利衛さんが「宇宙から見た地球には国境線は見えなかった」と語ったように、もともと境界線はなかったのかもしれません。視聴者の立場からすれば、見たいものを見たい時に見るだけのことで、それが放送なのか配信なのか、どちらでもよいのです。
それは各種調査からも明らかです。