ある公園では、中国共産党を罵る旗を掲げながら300人以上の学生たちが「打倒! 李鵬! 虐殺抗議!」と叫んでいた。あの頃の香港は中国とはまったく別の世界だった。

 その中の2、3人の学生が雀が騒ぐように口々に罵った

「鄧小平はとんでもない悪党だ。それに李鵬(国務院総理)の顔つきが最悪だ。殺人者の眼だ」

買い込んだ人民服で中国人風に

 香港から広州へ入った。広州の入管係官は日本人の入国に何の関心も寄せず、パスポートを放り投げるように返した。

 経済開放政策によって急速に発展していた広州。広州駅の駅前広場では多くの田舎から出て来た人々でごった返していた。色褪せて袖の擦り切れた人民服姿の男性が道端に座り込み、煙草を吸っていた。より良い生活を求めて出て来たのだろうが、先の不安は拭えないという顔つきだ。この歴史ある町はさらに人を呑みこもうとしていた。中国は何を目指しているのだろうか。

広州駅前には農村からあてもなく出て来た人々が溢れていた(写真:橋本 昇)
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