日本のがん医療へのIoT導入の基盤となるデータの蓄積を目指し

 木川氏は次のように語る。

 以前からePROに興味を持っていて、何とか院内に導入したいと思っていました。当初はアプリ開発なども考えましたが、そのような知識や資金もないため当然実現するわけもなく、悶々としていた時に、EORTCのホームページからこのCHESというプラットフォームの存在を知りました。そして、EORTCに問い合わせのメールを送信したのがちょうど2年前でした。それから、何回もメールでやりとりし、スカイプでのカンファレンスも数回行った後に、やっと導入することができました。

 本当はBasch先生らが今年のASCOで発表したような研究(上述)を早く行って、日常臨床で当たり前に使えるようにしたいのですが、まずは日本人の患者さんできちんとシステムが機能することを確かめないといけません。そのために、今回のパイロット研究を計画しました。今後はがん種や症例数を増やして、次の段階の研究を行いたいと思っています。

 ただし、私はIoTを使った患者モニタリングが生存期間の延長にまで寄与するとは考えていません。アメリカと日本では医療事情が全く異なりますし、現状のマンパワーでは十分な介入を行うことができないからです。しかしながら、このようなツールが医師-患者関係の向上につながり、がん患者さんのQOL維持に貢献することは間違いないと信じています。

 おそらく、将来的には老若男女を問わず、日本でほとんどの方は、何らかの形でインターネットに簡単にアクセスできる環境をもっているはずです。ITががん医療にとって当たり前の時代になるための、基盤となるデータを蓄積していければと考えています。

 そしてもちろん、これらはあくまで補助ツールであって、face to faceの心のこもった医師-患者コミュニケーションが、いつの時代においても最も大事であるということを最後に付け加えておきます。
 

 まさに、木川氏は正面から日本のがん医療のIoT臨床研究のパイオニアの一人であると言えよう。