「専業主婦は余裕がある」そう言ったかのようにされる切り抜き動画
マスメディアの影響力低下も、この間、リニアに進んだ。
新聞の発行部数、全国に展開されていた支局の数、取材にあたる記者の数、そしてテレビの総視聴時間は、いずれも大きく落ち込んでいる。
前述の通り、情報接触の主戦場は、日本でも完全にネット、そしてSNSへと移行した。この大きな流れ、時計の針はおそらく巻き戻らないだろう。だが、日本のマスメディアはそのことを認められずにいる。
そして現在、選挙との関連で最も関心を集め、同時に懸念されているのが、「動画」コンテンツの影響であろう。
スマートフォンの普及と通信回線の大容量化・低廉化により、データ量の大きな動画コンテンツを、いつでもどこでも手軽に視聴する習慣が、あらゆる世代に広まった。
一口に動画といっても、その形態は多様化している。
比較的長尺で、PCやテレビでの視聴も想定された伝統的な横長動画。
スマートフォンでの視聴に最適化され、数秒から数分程度の短い尺でテンポ良く情報を伝える縦長のショート動画(TikTok、YouTubeショート、Instagramリールなど)。
リアルタイムで配信され、視聴者とのインタラクションも可能なライブ配信。
そして、既存の動画(特にライブ配信や長尺動画)の一部を抜き出して短く編集した、いわゆる「切り抜き動画」などが代表的な例だ。
これらの動画、特に切り抜き動画やショート動画は、その性質上、発言の一部だけが文脈を無視して取り上げられたり、最も感情的で扇情的な場面のみが強調されたりすることで、元の意図とは異なる印象を与えたり、誤解を生んだりする危険性を孕んでいる。
政治家の発言や討論会の一部などが切り抜かれ、時には意図的な編集やテロップが付加されて、特定の候補者や政党へのネガティブキャンペーン、あるいは逆に過剰な賛美につながるケースが後を絶たない。
最近でも、河野太郎氏が過去のテレビ番組での年金制度に関する発言の一部を切り取られ、「専業主婦は余裕がある」と発言したかのような不正確な情報がSNSで拡散し、本人が否定しているにもかかわらず大きな批判を浴びる事例があった。

実際には、年金制度の公平性について議論する文脈での発言の一部であり、元の文脈を無視した切り取りであったことが指摘されている。
こうした、必ずしも正確とは言えない、あるいは意図的に偏向された政治関連の動画が大量に生成・流通し、有権者の政治意識や投票行動に強い影響を与えているのではないかという懸念が各方面から提起されている。