どうなる政治系コンテンツの「収益化の停止」議論

 NHKが報じたように、政治系の切り抜き動画の中には、総再生数が億単位に達するものも珍しくなく、その影響力は無視できないレベルになっている(2025年2月報道時点で総再生数35億回超)。一体誰が、どのような目的でこれらの動画を作成・拡散しているのか、その実態把握は容易ではない。

 従来のメディア研究、特に効果研究においては、有権者や視聴者はある程度の批判的思考力(メディア・リテラシー)を備えており、単に特定の情報を見聞きしたからといって、すぐに態度を変容させたり、投票先を決定・変更したりするほど単純ではない、という考え方が主流であった。

 しかし、現代のSNS環境においては、状況が異なってきている可能性がある。

 特定の思想や主張を持つ情報が、アルゴリズムによって選別・推薦され、ユーザーのフィードに集中的に表示される「フィルターバブル」や「エコーチェンバー」現象。

 そして、真偽不明の情報も含めて、圧倒的な量の情報に繰り返し接触することによる影響。

 これらが組み合わさった場合、従来の理論だけでは説明できない影響が、人々の認知や態度、行動に及んでいる可能性は否定できない。

 特に、プラットフォーム事業者が用いるアルゴリズムの詳細はブラックボックス化されていることが多く、その影響の実態は、まだ十分には解明されていないのが現状である。

 こうした状況に対する「対策」として、しばしば提起されるのが、政治的な情報や選挙関連コンテンツに対する「収益化の停止(オフ)」である。

 近年の動画配信プラットフォームやSNSには、単に再生回数に応じた広告収入だけでなく、投げ銭(スーパーチャットなど)、メンバーシップ、グッズ販売など、多様なマネタイズ(収益化)機能が実装されている。

 また、いわゆる切り抜き動画についても、元の動画の制作者(権利者)に対して収益の一部を分配する仕組みや慣行も整備されつつある。

 こうした仕組みは、クリエイターの創作活動を経済的に支える側面を持つ一方で、再生回数やエンゲージメント(いいね、コメント、シェアなど)を稼ぐことが、コンテンツ制作の強いインセンティブとなる構造を生み出している。

 その結果、より過激で扇情的な、あるいは対立を煽るようなコンテンツが、経済的な動機から量産され、アルゴリズムによって拡散されやすくなる、という負の側面も指摘されている。

 選挙や政治といったテーマが、再生数を稼ぐための「ネタ」として消費され、結果として民主主義的なプロセスや選挙の公正性に「過度に」悪影響を及ぼすのではないか、という懸念である。

 実際に、総務省の有識者会議などでも、偽・誤情報対策の一環として、プラットフォーム事業者に対し、問題のある情報の発信・拡散主体への収益の流れを断つために「収益化の停止」を求めることが議論されている。

 情報自体の削除には至らずとも、経済的インセンティブを無くすことで、有害情報の拡散を抑制する効果が期待されるという考え方だ。

 専門家からは、選挙期間中に限定して、プラットフォーム側が政治関連コンテンツの収益化を一時的に停止するといった具体的な提案もなされている。