トランプ大統領誕生で「ポスト・トゥルース」時代に
当時は、2011年の東日本大震災発災直後に、首相官邸をはじめとする官公庁が相次いでツイッターアカウントを開設し、災害情報の発信や国民とのコミュニケーションにおいて、新しい情報発信の可能性が探求された時期であった。
迅速な情報伝達手段としてのSNSの有効性が認識され始めた頃であり、今では国民的コミュニケーションツールとなったLINEがサービスを開始したのもこの頃である。
すでにこの頃には欧州などでは、特にロシアを念頭に置きながら、国家による影響工作や、ボットや自動化されたアカウント、偽情報などを駆使して世論操作を狙う「コンピューテーショナル・プロパガンダ」の可能性と、それに対する対策の必要性が真剣に検討されていた。
ロシアは、実在のウェブサイトになりすました偽サイト(ドッペルゲンガー)や、「トロールファーム(荒らし工場)」を通じて、大量の挑発的・扇動的な投稿を拡散させ、社会の分断を煽り、世論に影響を与えようとしてきた。ハッキングも常套手段とされている。
こうした活動は、最近のウクライナ侵攻を正当化するプロパガンダ拡散にも利用され、EUはロシア国営メディア「RT」や「Sputnik」の域内での放送を禁止する措置を取るに至っている。
しかし、当時の日本においては、独自の言語と文化が壁となり、こうしたグローバルな情報戦の脅威が国内に及ぶ可能性は低いとみなされ、いわゆる「言語の壁」によって守られているという楽観的な見方が支配的であったように思われる。それは総務省のプラットフォームサービス研究会の報告書の記述などにも見て取ることができる。
その後、2016年には世界的に大きな政治的変動が相次いだ。
イギリスでは国民投票でEU離脱(ブレグジット)が僅差で可決され、アメリカでは大方の予想を覆してドナルド・トランプ氏が大統領選挙に勝利した。
これらの出来事の背景には、SNSを通じた情報拡散や世論形成が少なからず影響したと考えられている。特にトランプ陣営は、SNS、とりわけTwitterを駆使した選挙戦略を展開し、支持を拡大したとされる。
感情に訴えかけるメッセージや、時に事実に基づかない情報、過激な発言で注目を集め、移民問題や経済的不安といった有権者の感情を刺激する戦略は、「ポスト・トゥルース」時代の象徴とも言われた。
このようなSNSを介した情報戦略が、従来の選挙戦のあり方を大きく変えたという認識が広がった。