「関係人口」拡大へ政府の先をゆく
台湾の商工会議所に相当するような経済団体「全国商業総会」と豊前市が協力し、同市内に「台湾ビジネスサービスセンター」を開設し、4月から運営を開始することを決めた。運営資金は台湾側が負担し、中国語ができる専属職員1人を豊前市が雇う形になる。
同センターの役割は、台湾の中小企業が日本に進出する際、中小企業個社では対応が難しい会社設立、税務、法務、ビザ取得、銀行口座開設などに関して専門家につなぎ、ワンストップでサービスすることを目指している。
こうした企業誘致と同時に、豊前市は台湾との学術、文化交流も進める。中華民国私立科技大学校院協進会とは教育交流の覚書も締結した。市内に台湾の大学のサテライトキャンパスなどの設置を目指す計画だ。
また、ジャズや和太鼓とコラボレーションする「若楽」と「豊前天狗太鼓」が昨年7月、台北市の中心部にある世界貿易センターで開催されたイベントで披露された。国指定の重要無形民俗文化財である「豊前神楽」の一部の担い手も参加しており、台湾のニュースでも取り上げられた。ジャズと和太鼓がコラボレーションし、台湾のニュースでも取り上げられた。筆者も手弁当で参加したが、大いに盛り上がり、台湾で豊前市の認知度向上につながったと感じた。

台湾との学術、文化交流の推進などによって、豊前市を応援してくれる「関係人口」を増やす戦略でもある。石破内閣は文化や芸術、スポーツを活用して地方創生を進めたい考えだが、その政府の戦略よりも豊前市は一歩先に進んでいると言えるのではないか。
これまで述べてきたように、北部九州ではこれまでにない新たな日台交流の芽が芽生えようとしている。人口2万3000人の小さな町は、こうした新たな潮流の「ハブ」になることで、地域の活性化を進めている。
少子高齢化が進む豊前市は財政的には楽ではなくても、知恵を使って時代の最先端の動きに乗ろうとしているように見える。
井上 久男(いのうえ・ひさお)ジャーナリスト
1964年生まれ。88年九州大卒業後、大手電機メーカーに入社。 92年に朝日新聞社に移り、経済記者として主に自動車や電機を担当。 2004年、朝日新聞を退社し、2005年、大阪市立大学修士課程(ベンチャー論)修了。現在はフリーの経済ジャーナリストとして自動車産業を中心とした企業取材のほか、経済安全保障の取材に力を入れている。 主な著書に『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(文春新書)、『自動車会社が消える日』(同)、『メイド イン ジャパン驕りの代償』(NHK出版)、『中国発見えない侵略!サイバースパイが日本を破壊する』(ビジネス社)など。