転職の動機、実は「後ろ向き」が多い?
転職理由として「人間関係が上手くいかない」を挙げた若者のうち、他の転職理由も挙げている若者の割合を見た(図表3)。約3人に1人が「給料に不満がある」「風通しが悪い(意見が言いにくい)」「昇進が望めない」「残業が多い/休日が少ない」「社員を育てる環境がない」「肉体的につらい」「会社の将来性が不安」という理由を挙げていた。
■図表3:「人間関係が上手くいかない」該当者のうち他の転職理由も該当する者
要するに、若者が「人間関係が上手くいかない」を転職理由に挙げた職場には複数の問題があることが多い。
例えば、若者は転職前の職場で日々叱責してくる上司に不満があったとする。若者は上司との関係の悪さのせいで転職を決断したと考えている。
しかし、その職場は給与が低く、風通しが悪く、昇進も望めず、残業も多く、そうした労働環境に上司自体が疲弊しており、そのストレスを部下である若者にぶつけていたのかもしれない。職場の人間関係の上手くいかなさを理由に転職する若者の背後には、こうした複雑な事情があることも考えられる。
確かに若者は転職を肯定的に捉えている。しかし、このような若者の転職に対する認識は、自らの手でキャリアを切り拓こうという積極性、つまりポジティブな感情からではなく、問題ある職場から少しでも早く離脱したいという、ネガティブな気持ちから来ているのかもしれない*4。
*1:「2025年卒マイナビ企業新卒採用活動調査」(マイナビキャリアリサーチLab、2024年)
*2:「月の平均残業時間の実態調査(年代別・男女別・職種別)」(doda、2024年)
*3:「若年者のキャリアと企業による雇用管理の現状:『平成30年若年者雇用実態調査』より」(労働政策研究・研修機構、2021年)
*4:日本の労働組合組織率は低下傾向にある。若者が働く職場にも組合がないことが多いだろう。このことは、職場に問題があっても自分たちの手で変えようと思うのではなく、転職したほうが“合理的”という発想に繋がるのではないだろうか。日本の労働組合の(推定)組織率の推移については次を参照してほしい。「図1-1 労働組合組織率、組合員数」(労働政策研究・研修機構、2025年)

日本社会事業大学、岐阜大学、山梨学院大学の教員を経て、2023年4月より現職。大学教員としてはキャリア教育科目の開発・担当、教養教育改革、教員を対象とした研修運営などを担当。研究者としては、主に若者の学校から職業世界への移行、大学教職員や専門学校教員のキャリアに関する調査に関わってきた。