北極点の気温上昇は4度近くも
北極圏での採掘も拡大している。ノルウェー北極大学地球観測グループのロビー・マレット氏もCOP29会場で北極圏が赤茶色に染まったスライドを見せ、「新雪は太陽光の90%を反射するが、海は5%以下。海氷の消失による直接的な影響がある」と表情を曇らせた。
同氏によると、1940~70年と過去1年間の平均気温を緯度ごとに調べると赤道周辺に比べ極地の気温上昇は劇的だ。中でも北極圏に入ると摂氏2度以上、北極点では4度近く気温上昇していた。北極圏航路や採掘が活発になれば、黒色炭素が雪や氷の表面を覆って太陽光を吸収する。
温暖化に伴って北極圏でロシアの軍事化、要塞化が進む。北極圏はロシアの国内総生産(GDP)の20%近くを占め、主要貿易ルートでもある。ロシアは北極圏で北大西洋条約機構(NATO)加盟国に取り囲まれ、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟で緊張は一段と高まる。
英シンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)のマチュー・ブーレーグ研究員は昨年10月に発表した研究プロジェクト「ロシアの極地政治の軍事化 北極と南極で高まる緊張と対立の脅威への対応」の中で次のように指摘している。
「ロシアは北極圏における軍事プレゼンスを活性化させ、北極圏全域に多層的な防衛堡塁を構築している。北極圏のインフラは民生、軍事両用に使用され、ロシアの軍事力は攻撃的意図と防衛的意図の境界線を曖昧にしている。ロシアは技術と能力の面で選択肢を最大限に広げている」
【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。