ウクライナのロシア逆侵攻は「軍事援助中止撤回」のディールか
今年(2024年)8月6日、ウクライナ軍がロシアに逆侵攻を仕掛けた。5000~1万人の大兵力でウクライナ北東部からロシア領内のクルスク州を奇襲し、国境から約30km内陸の地方都市スジャを制圧した。ウクライナ侵略戦争で同軍による初のロシア本土への本格的逆襲に、世界中は度肝を抜かれた。
侵攻部隊はスジャ周囲に陣地を構え、近隣の主な橋梁も次々と破壊。ロシア軍の反撃に備えつつ長期間占拠する構えも見せる。
>>【写真】ロシア領内のクルスク州を逆侵攻したウクライナ軍の奇襲部隊
虚を突かれたロシア・プーチン大統領の面目は丸つぶれで、祖国防衛に絶対の自信を見せた「強い指導者」のトレードマークも、大きく傷ついている。
「プーチン氏の顔に泥を塗ることができた」だけで、ウクライナにとっては大成功だろう。同国のゼレンスキー大統領は、主たる目的を「侵略者の領内に緩衝地帯を構築するため」と強調するが、主要メディアは他の狙いも勘繰る。
「将来のロシアとの停戦交渉に備えて奪われた国土と交換するための“人質”」
「ロシア国民の厭戦(えんせん)気分を盛り上げるため」
「スジャ近郊のクルスク原発へのプレッシャー」
「米製ATACMS地対地ミサイルの長射程型(射程300km)のロシア領内攻撃をアメリカに容認させる」
だが、ゼレンスキー氏は全く別次元の思惑も忍ばせているのではないだろうか。「もしトラ」、つまり「もしも今年11月5日の次期米大統領選で、トランプ前米大統領が勝利したら」という、ウクライナにとって“悪夢”のシナリオが正夢となった時の「保険」、あるいは「ディールの切り札」という備えである。
特にディール好きのトランプ氏が大統領に返り咲いたことも想定し、「ロシアへの逆侵攻と領土の一部占領」という派手な手札を用意しようというもので、より具体的には「LNG(液化天然ガス)」と「軍事援助中止の撤回」をキーワードとした取引の交渉が、すでに水面下で行われているかもしれない、との推測だ。