米国製F-16戦闘機を公開したウクライナのゼレンスキー大統領米国製F-16戦闘機を公開したウクライナのゼレンスキー大統領(写真:AP/アフロ)

制空権確保にようやく本腰を入れられるウクライナ

 勃発から2年半が過ぎたウクライナ侵略戦争に大きな転機だろうか。8月6日、ついにウクライナ軍がロシア領内に初めて本格的な逆侵攻を実施。5000人~1万人の大兵力でロシア西部クルスク州(ウクライナ北東部)を奇襲し、30km以上も内陸に進撃。制圧地域を拡大し続けている。

 ロシアのプーチン大統領の衝撃は計り知れず、「鉄壁」を自負した自国の防衛力の脆弱さ国内外に宣伝してしまったばかりか、プーチン氏の権威も大きく傷ついている。

 一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、まんまとプーチン氏を出し抜くことに成功。強気の背景には「長距離対空ミサイルが使え妨害電波にも強い米製戦闘機F-16が到着し始めた」という事実がある。

 ウクライナ侵攻部隊を駆逐しようとロシアが戦闘機を繰り出そうとしても、F-16の存在が心理的な抑止力となり、安易に戦場へと飛ばせないからだ。

 そのF-16だが、西側の鈍重な対応にしびれを切らすゼレンスキー氏に対し、アメリカ政府首脳やNATO(北大西洋条約機構)高官が「2024年の7月中には引き渡す」と期限を明言。その言葉通り、2024年7月31日、ついに米国製「F-16 戦闘機」の第一陣数機がウクライナ入りを果たした。

 2022年2月のロシアによるウクライナ侵略直後から、ゼレンスキー氏はアメリカのバイデン大統領に、同機の供与を訴え続けていた。

 だが「第三次大戦=全面核戦争」へのエスカレートを恐れるバイデン政権は及び腰。決断したのは、開戦後1年以上もたった2023年5月のことで、実際の納入まではさらに1年以上待たなければならなかった。

 F-16を入手したウクライナは、現代戦で不可欠な制空権(航空優勢)確保や、味方地上部隊への航空支援(爆撃など)に、ようやく本腰を入れることが可能となる。

 現段階ではNATO加盟国のベルギー、ノルウェー、オランダ、デンマークの4カ国から100機弱が届く計画で、一部報道では今年中に20機程度納入される見込みだという。その後はウクライナ人パイロットの訓練の進捗具合を見ながら、徐々に配備数を増やしていくのだろう。

ベルギーを訪問してF-16の供与を取り付けたウクライナのゼレンスキー大統領ベルギーを訪問してF-16の供与を取り付けたウクライナのゼレンスキー大統領(写真:AP/アフロ)

 8月4日、ゼレンスキー氏はF-16の運用開始を正式に宣言した。

「F-16がウクライナ上空を飛んでいる本日、皆さんも正式にご覧になることができます」「わが空軍力は新たな段階に突入しました」

 と喜びを隠さない。空中戦はもちろん、対地、対艦、対レーダー、電子戦(妨害電波)、偵察など、F-16は何でもこなすマルチロール(多任務)機で、ウクライナにとっては「一騎当千」そのものだろう。

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