偵察用ドローン“Leleka100”の頭部にはカメラが搭載されている偵察用ドローン“Leleka100”。頭部にはカメラが搭載されている(筆者撮影)

(高世 仁:ジャーナリスト)

 ウクライナ軍がロシア軍と対峙する前線で何が起きているのか。冬を前にした10月下旬、激戦が続くウクライナの東部戦線と南部戦線を訪ね、実態を取材した。

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反転攻勢失速の原因はやはり航空戦力不足

 ウクライナは6月、ロシア軍に対する本格的な反転攻勢を開始した。だが、それから半年たっても戦線は大きく動かず、膠着状態に入っている。

 ウクライナ軍のヴァレリー・ザルジニー総司令官は、11月1日付けの英誌「エコノミスト」で、戦争が第1次世界大戦時のような「陣地戦の形態」(positional form)に移行しつつあることに危機感を示した。戦争の長期化は、国力に勝るロシアを有利にするからである。

 ザルジニー司令官はこの状況をもたらした重要な要因として、敵の圧倒的な「航空優勢(air superiority)」を挙げた。ロシアが侵攻したとき、「ウクライナ軍は120機の戦術機をもって参戦したが、そのうち技術的に使用に適していたのは40機にすぎず、33の中・短距離対空ミサイル大隊のうち完全に使用可能な装備をそなえていたのは18しかなかった」と空軍力の惨状を具体的に指摘しつつ、この状況を打開する必要性を強調した。

 私が訪れたウクライナ地上軍の部隊でも、兵士に一番の困難は何かと問うと「航空戦力の不足」という答えが返ってきた。兵士らは前線で制空権がないまま、苦しい戦いを強いられている。

 ウクライナは、ロシア侵攻直後からジェット戦闘機などを強く欧米に求めてきたが、バイデン大統領がようやくF16戦闘機の供与を表明したのは、5月の広島サミットにおいてだった。F16を実戦で使用するにはパイロットの訓練期間なども必要で、6月からの反転攻勢にはとても間に合わなかった。欧米はロシアを刺激することを恐れて、ウクライナに強力な兵器を渡すタイミングを逸したことが、反転攻勢の成り行きに影響を与えている。