(英エコノミスト誌 2024年6月8日号)

ATACMSの供与でロシア軍が大ダメージを受けつつある(写真は2020年4月30日米ニューメキシコ州での発射試験、米陸軍のサイトより)

ロシア国民のリゾート地がクレムリンの軍隊に対する死の罠になりつつある。

 良い知らせがようやくウクライナから届いた。

 米連邦議会で半年間の足踏みがあった末に、バイデン政権が今年4月に610億ドル規模の軍事支援パッケージを承認したことが成果を上げている。

 なかでも、300キロメートルの射程距離を誇る弾道ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」が届いたことで、ウクライナは今、ロシアの占領下にあるクリミアのどんな標的も攻撃できるようになり、絶大な効果をもたらしている。

 ここ2週間は、ウクライナ第2の都市ハリコフの北東に展開するロシア軍も、勢いを失ったように見える。

 そしてそれ以上に重要かもしれないのは、ジョー・バイデン米大統領が欧州の同盟国からの強い要請に押され、ロシア領内の軍事目標攻撃に米国製兵器を使うことへの制限(核戦争にエスカレートすることを恐れて導入していた措置)を5月30日に緩和したことだ。

 これによってウクライナは米国製兵器の一部を、国境の向こう側でハリコフ攻撃に備えるロシア軍部隊に向けて使えるようになった。

 この部隊に滑空爆弾――5月25日にハリコフの大型商業施設を襲い、少なくとも18人の死者を出したタイプの爆弾――を発射する戦術航空機が配備されているかどうかは明らかでない。

プーチン大統領が「不沈空母」と見なす至宝

 しかし、ウクライナ国民がひどく苛立っていることに、バイデン氏はロシア領内の軍事目標以外への攻撃をまだ容認していない。

 そのような状況で何ができるのかについては、クリミアにおけるウクライナの作戦行動の効果を見れば分かる。

 かつて米国の在欧州陸軍司令官を務め、現在は北大西洋条約機構(NATO)兵站担当シニアアドバイザーに就いているベン・ホッジス氏によれば、ウクライナは「クリミアをロシア軍が駐留できない土地に変えているところ」だという。

 成功すれば、ウクライナにとって大きな収穫になる。

 ロシアはエカテリーナ2世の時代から、クリミアを軍事上の至宝と見なしていた。

 ウラジーミル・プーチン大統領は、2018年からケルチ橋(クリミア大橋)によってロシア本土と結ばれたクリミアを不沈空母だと考えていた。

 クリミアの兵站ハブ、空軍基地、そしてセバストポリに本部を置く黒海艦隊は、ウクライナ南部を支配し、ウクライナの穀物輸出を封鎖し、人や物資を着々と送り込んでウクライナ人を北に追いやることに利用できる。

 プーチン氏はクリミアの軍事インフラ整備に多額の資金を投じてきた。しかし今、そのすべてが脅威にさらされている。